「アメリカの求人市場を激変させた」Googleの最新就職サービスが日本に上陸

はじめに

今日本でも求人に関する検索をGoogleで行うだけで、希望に近い求人情報を検索できることをご存知でしょうか。これは「Googleしごと検索(Google for Jobs)」と呼ばれるサービスで、2019年1月23日に開始されました。実はこのサービス、本場アメリカでは2017年6月から始まっていたのです。Google for Jobsの存在は、アメリカの求人市場にはどのような影響を及ぼしているのでしょうか。この記事では米国におけるGoogle for Jobsの特長と既存の求人企業への影響、そして求人市場における今後の可能性について解説します。さらに日本でのGoogleしごと検索の概要と求人市場の今後について解説します。

・Google for Jobsで求人検索が大きく変わった

アメリカではこれまで、インターネット求人サービスと言えばIndeedやMonsterと言ったサイト(会社)が主流でした。しかし近年は脆弱な検索機能や数多くある募集終了の求人票の存在が問題になっていました。さらに企業へ応募するときに自分に合った仕事であることが不明確なことが多くあります。そのため無駄とも思えるほど多くの履歴書を提出せざるを得ない現状は求人サイトではよくある話になっていました。ところがAIの発展で求人を探す方法が劇的に変化しており、求人市場にも大きな影響を及ぼしています。

※Indeed:求人情報専門の検索エンジン。2012年にリクルートホールディングスの子会社となる。

※Monster:ニューヨークに本社がある求人情報サイト大手。世界55か国で事業を展開している。

この変化を促している主役はグーグルです。グーグルは昨夏「Google for Jobs」という独自の求人検索サービスを開始しました。このサービスではAIや学習機能を用いて、様々な求人サイトや求人アプリの中にあるより良い求人を検索、表示することができます。

Google for Jobsの製作責任者であるNick Zakrasek氏は以下のようにコメントしています。

「AIによる検索能力を求職者に手渡したことで、Google for Jobsは次のステップに移ったことになりました。」

「Google for Jobsの誕生によって、アメリカ中でその人にピッタリの求人を見つけやすくなることが目標です。」

さらに同氏はGoogle for Jobsの最大の利点についてもコメントしています。

「様々な求人サイトにある全ての求人情報が先に表示されるので、どの求人サイトを使うべきかの決定権が求職者に移ることです。」

これまでは求人サイトにアクセスしてから求人情報を検索、応募する必要がありました。しかしGoogle for Jobsを使うことで先に応募すべき求人が検索されるので、求人サイトへのアクセスや登録はその後でもできるようになるのです。

・いつもの「Google検索」で就職先が見つかる

Google for Jobsでは特別なサイトを見に行く必要はありません。普段のGoogle検索と同じように、求人について皆さんの希望を入力して検索するだけです。例えば「家の近く」や「保険の仕事」といった感じです。希望の通勤時間や勤務時間といったことも入力すればその条件を優先した結果が出ます。GlassdoorやPayScaleといったサイトで見られる収入の見積りに関しても検索することができます。さらに、多くの求人で経営者の評価やレビューに関する確かな情報を得ることもできます。Zakrasek氏は「今後さらなるフィルター機能や情報を加えていくつもりだ。」と言っています。

※Glassdoor:2007年創業の求人検索サイト大手。社員や求職者が記入した会社に対する口コミ情報が多いことで知られている。2018年に日本のリクルートホールディングスの子会社となる。

※PayScale:2002年創業の求人検索サイトを運営する企業。5,400万人分の賃金データベースを構築し、無料で職種ごとの賃金水準を検索することができる。

同氏は今後の可能性についてこのように言っています。

「Google for Jobsで仕事探しをする人の割合を増やすことができれば、求人の検索エンジンとして強いブランドを持つことは間違いないでしょう。」

・日本でもほぼ同じようにお仕事検索をすることができる

筆者も日本で始まったGoogleしごと検索を実際に使ってみました。すると、広告サイトの次に求人のページが表示されました。これまではIndeedの求人サイトが上位検索されていましたが、これからはGoogleおしごと検索の結果が先に表示されるようです。さらにアカウントを持っていれば、求人情報の保存やアラートをすることができます。

・ネット就活の生産性をGoogleは大きく変えようとしている

2000億ドル市場と言われるアメリカの求人市場にGoogleが投資したいのは当然と言えます。アメリカの労働統計局によると毎年アメリカでは20~24%の人が転職しています。また、1年間で4100万人が就職先を探し、求人に応募しているとのことです。そのため企業は求人広告のために数十億ドルのお金を費やし、さらに応募があった後の面接やその日程調整そして評価のために1人当たり約4,000ドルを費やしているのです。

Googleは求人を出す会社にとって本当に応募する価値のある人に応募してもらえる仕組みを作ることに注力しています。そうすることで求人市場に新しい流れを引き起こすことができると考えています。しかしZakrasek氏はこうも言っています。

「GoogleはLinkedInや Monsterといったこれまでの求人サイトを排除するつもりはない。」

「むしろこれら求人サイトと提携することで、これまでの求人データを活用したい。そして10年以上変えられなかった求人に関するマッチングプロセスの変革を押し進めたい。」

※LinkedIn:ビジネス特化型のSNSサイト。応募者がプロフィールを登録し、それを見た企業が応募者とコンタクトを取る仕組み。登録者数は5億人を超えている。

さらに同氏はこのように言っています。

「Googleとしては、既に出来上がっている産業をゼロから作り直そうとしているのではありません。私たちは既存の求人サイトと共に残された問題を解決していきたいのです。」

停滞している産業に新たな展望を押し広げたいというGoogleがもつビジョンは順調に進んでいるようです。

・日本でもネットを使った就活が効率的に

日本のGoogleしごと検索でも表示された求人を直接応募することはできません。一度表示されたサイトに行き、そのサイトを通して応募する必要があります。検索で表示されるサイトは既存の求人サイトに掲示されている求人も多くあります。したがって既存の求人サイトにとってはアクセスが増える可能性があります。求職者にとっても求人サイトを転々と見回る必要がなくなります。したがってGoogleしごと検索でより効率的に就職(転職)が行えると言えます。

・求人市場の流れはすでに変わりつつある

ニュージャージー州ホルムデルにあるiCIMS社は、求職者追跡システムや求人用ソフトを開発しています。iCIMS社でマーケティング責任者をしているSusan Vitale女史はGoogle for Jobsの参入は求人市場の競争に拍車をかけたと考えています。iCIMS社はGoogleと協業している求人会社の1つで、世界中に3,500万人のユーザーがいます。

「Google for Jobsを利用し始めてから、iCIMS社の転職サイトへのアクセスが90%増加した。」と同女史は言っています。一方でIndeedからのアクセスは昨年に比べ減少したとのことです。

同女史はGoogleによるネット求人業界における変化は、インターネット界の巨人企業が旅行業界でKayak社のような比較サイトの役割りを引き継いでいくようなものだと言っていました。

※Kayak社 国内外の航空券やホテル、レンタカーなどの検索・価格比較ができるサイトを運営する企業。本社はアメリカ合衆国コネチカット州スタンフォードにある。

さらに同女史は求人サイトの今後について以下のように述べています。

「旅行先の奇麗な写真を見るためにTripadviserのようなサイトに行くことがあっても、ほとんどの予約はGoogleを通して行うことになるでしょう。」

※Tripadviser:旅行やホテルに関する口コミサイト・アプリ大手。閲覧数は世界最大と言われている。本拠地はアメリカ合衆国マサチューセッツ州。

さらに同女史は以下のことも言っています。

「Googleは求人情報を提示するだけで満足していません。彼らは最高の求人検索サービスを作り上げるつもりでいます。」

Googleは元来、インターネットの検索機能を強化してきた企業です。そしてその本質は「調べたい・知りたいことがすぐに分かる」という人間の欲求にかなったものだと言えます。その本質が求人市場では十分に達成されていないと言えます。Googleはその不十分な部分を埋めていこうとしているのです。

・ライバルも試行錯誤している現状

このようなことがあってIndeed社など求人サイトでも競争が激化している市場で生き残るためにAIを試しています。

Googleと同じように、Indeed社でも求職者に見合った求人情報が表示できるための無数のデータを読み込ませたAIを使っています。AIを用いて求人サイトに書かれている言葉を解析します。同社の副社長であるRaj Mukherjee氏は「これは最適な求職者に検索されるための言葉を拾い集めることができるシステムだ。」と言っています。このシステムを導入してから、企業が応募者に返答する割合が全業界を通して10%上昇したと言います。さらに同社では求職者の履歴書をチェックして求人に応募する前によりマッチした求人情報を見つけられるようにフォローします。さらに同氏は企業と求職者のマッチングが業界の根本的な課題であると認識し、AIがそれらを解決できるものだとも考えています。

さらに同氏は以下の様に述べています。

「来年、いや数年後には朝のうちに求人募集にクリックして仕事が決まってしまう姿が当たり前になることを想像しています。」

一方で毎日70万人の求職者にサービスを提供しているAdecco社の副社長であるAngie College女史は「求人掲示板でAIを活用できることはほんの一部しかない。」と言います。

さらに現状として同女史は以下の様に述べています。

「現在求人システムと無記名の求人掲示板の情報を統合しようと話を進めています。しかし今すぐできることと言えば掲示板向けに求人広告を掲示することぐらいです。」

「応募プロセスにはMya Systemsと呼ばれる応募者が入力した内容をAIですぐに解析できるシステムがあります。すぐに導入するつもりです。」

※Adecco:世界60か国以上で展開する総合人材サービス企業。本部はスイスチューリッヒ州にある。

・求人掲示板は今後、統合や再編の波が来る

求人のマッチングにおいて、AIが競争優位性を引き出す決め手の一つになっています。しかし採用に関する様々なステップで生じる情報を統合していくことが、雇用主、求職者双方にとって必要です。求職者の利便性だけでなく、採用側が求職者に直接スカウトできるようになれば、求人情報掲示板はさらに進化できるでしょう。

さらにAdeccoと iCIMSでは求人情報を閲覧していないときでも、積極的に情報提供できるツールに注目しています。Indeedのような求人情報掲示板大手でもそのような需要があることを認識しています。例えばIndeedで使われている評価システムでは雇用主が面接前に求職者の仕事に対する適正評価を知ることができるのです。

IndeedのMukherjee氏はこの評価システムについて以下のようにコメントしています。

「履歴書は求職者に関する情報の一部にすぎません。過去にしてきたことをおさらいしているだけです。履歴書だけでは求職者がこれからやりたいことだけでなく、過去にしてきたスキルでさえ証明できないのです。」

「私たちはこの評価システムを使うことで履歴書では足りない情報を補ってくれるものだと確信しています。」

HiltonやAT&Tへ採用管理システムを提供しているAllyO社で経営戦略や運営を行っているShobhit Gupta氏という人がいます。同氏の顧客の間でも求人検索と実際の採用活動が統合できることに関心を示すことが増えていると言います。実際同社では現在求人情報掲示板を運営する2社と同社のシステムを統合させることについて協議しているとのことです。

※AT&T 米国最大手の電話会社を有する持ち株会社。主力は携帯電話事業。電話を発明したグラハム・ベルが設立した電話会社が前身。

※Hilton 世界的なホテルチェーンの一つ。世界6大陸の570以上の地域で事業を展開している。

同氏はさらにこう述べています。

「より良い求職者を採用するためには求人情報掲示板の質を上げる必要があります。今の掲示板のままで良いと思いますか?そんなことは無いはずです。」

続けて同氏はこのように述べています。

「小売業界と言った大量に採用を行う業界ではAIによる求人の自動化は続けられるでしょう。」

「一方で金融やコンサルタントといった業界では良い人材ほど積極的に求人を探そうとしません。そのような業界では求人掲示板を用いてスカウトするようになっていくでしょう。」

「実際LinkedInでは社内のSNSやニュースフィードをスカウトの情報源として用いています。」

「またCareerBuilderやMonsterでは「ブランドコンサルティング」という名称で同様のサービスを開始しています。」

「Indeedでは企業が様々な求人情報や企業に対するコメントを収集できるシステムを提供しています。さらに求人やコメントを閲覧した人について一定の指標を企業に提供します。」

「また昨年、Indeedの親会社であるリクルートホールディングスがGlassdoorを買収しました。この動きも業界統合の流れを受けてのものだと言われています。」

・日本でもマッチングのためのSEOが求められる

今後は日本でもGoogle しごと検索で表示されやすくなるような求人サイト作りが求められるでしょう。したがって採用側は応募してきてほしい人が検索に使いそうなキーワードを募集要項に明記することが重要になってきます。

またGoogleしごと検索にはレビュー機能があります。これは募集している企業に対して投稿されたコメントや意見が表示されます。レビューにて悪い評価が書かれていると募集に影響を及ぼす可能性があります。

・求人情報掲示板はまだ重要な存在

しかし求人情報掲示板が他のサービスに取って代わり、企業がより活発に採用できる仕組みができたわけではありません。

College女史によると

「求人情報掲示板は極めて重要で、依然として採用活動において非常に貴重なポジションを担っています。」

最後にVitale女史はこのようにコメントを加えています。

「Google for Jobsはこれまでの求人市場に足りなかった要素に適合しただけで、このブームがいつまでも続くとは考えられません。」

・Googleしごと検索が日本の求人市場に与える影響は今のところ限定的

このように米国ではGoogle for Jobsの登場によって、求人市場全体が活性化しています。今後日本でGoogleしごと検索が展開される上で、どのような流れが考えられるでしょうか。

まず大きく流れを変えられそうなのが、アルバイトやパート採用の求人です。なぜならこれら求人は高いキャリアや限定された資質を必要としません。したがってGoogle検索で就業地域や時給と言った簡単な検索で上位表示されることが重要になるからです。

一方で中途採用、特に管理職などの求人に関してはGoogle for Jobsの効果は限定的だと考えられます。なぜなら、採用側が求めるキャリアや資質を示すキーワードは多数になることが多く、求職者がGoogle検索でそのキーワード全てを入力することは考えにくいからです。 しかしこのような課題は業界でも認識されています。そして米国ではその解決に向けた動きとしてシステムの統合や企業の買収・合併が進んでいます。またAIの機能もさらに進歩すると考えらえます。したがって日本でも将来的には同様の流れが起こると言えます。

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