HRテック発展の歴史を知る。年代別の特徴、具体的な企業、HRテックのこれからを解説

近年AIなどのテクノロジーを利用した様々なサービスが登場しています。各分野とテクノロジーの組み合わせを、○○テックと表現するようになり、その中の一つに、HRテックがあります。

HRテックは、人事業務の効率化を助けるサービスで、現在に至るまで歴史を積み重ね、発展してきました。今回は、HRテックが発展してきた歴史や代表的な企業・サービスを解説していきます。今後の人事戦略にも関わるため、これからの展望も予想しながら見ていきましょう。

 

1.HRテックとは

まずHRテックとは何かを理解する必要があります。IT用語は馴染みがない方も多く、言葉だけでは、理解しにくいこともあるでしょう。言葉の意味から理解し、ビジネスシーンの具体的な場面に当てはめると理解しやすくなります。HRテックの意味やいつごろから始まったかなど、HRテックの基本をおさえていきます。

1-1 HRテックって?

HRテックという言葉は、HRとテックに分けることができます。HRとはhuman resourseの略で、日本では「人事」と表現されます。テックはテクノロジーの略で、ロボットやAIなどの先進的な技術のことを言います。

人事にテクノロジーを取り入れ、効率化や発展を実現するのが、HRテックです。様々な分野で取り入れられているテクノロジーを人事に取り入れることで、採用や労務管理などの負担を軽減し、より創造的な人事活動に力を割くことができます。

1-2 HRテックの種類を知ろう

人事と一口に言っても、様々な業務があります。新たな人材を獲得するための採用活動や既存の人材をより成長させる人材育成など、企業にとって欠かすことのできない人材に関わる大切な業務と言えます。

HRテックは、様々な人事業務に対して、効率化・発展をもたらします。HRテックを大きく分けると、「人事システム」「労働力の獲得」の2つになります。

「人事システム」では、人事の業務を効率化するために、給与計算や労務管理など定形的な業務を担います。組織を活性化させるシステムも含まれ、企業と人材の間の満足度を図るエンゲージメントやフィードバックなどの分析に役立ちます。

「労働力の獲得」に関わるHRテックは、Lancersをはじめとしたクラウドソーシングによる一時的な労働力の獲得や逆求人型サービスとして有名なOfferBoxなどのダイレクトソーシングなどが挙げられます。

多岐に渡る人事業務に対して、HRテックも発達を続けています。効果的にHRテックを導入するためには、人事のどの部分に問題があって、どのように改善したいかを検討することが大切と言うことができます。

1-3 HRテックの歴史の始まりは海外

日本でも、HRテックを活用したサービスは増えつつありますが、HRテックの歴史を振り返ると、始まりは海外で、現在の主流も同じく海外です。

アメリカでの産業の発展やIT技術の発展により、人事の効率化から始まり、人事の活性化を目指して成長を続けてきました。そのなかで様々なHRテックが登場し、人事の仕事に対応したツールが発達しました。

日本において、近年働き方が重視されています。自分にあった働き方を選択し、人生全体を充実させる考え方です。自分に合った働き方を望む方が増え、企業内での働き方だけでなく、個人で働く方法も増えてきました。

多様な働き方が登場し、人材の確保が難しくなりつつある背景から、HRテックが導入され始め、より戦略的な人事が求められるようになっています。

そして近年、海外に続くように、日本でもHRテックの歴史が始まろうとしています。さっそくHRテックの誕生から発展までの歴史を時系列で見ていきましょう。

2.【HRテックの歴史:1990年代】労働管理システムからHRテックが始まった

HRテックの歴史の始まりは、1990年代のアメリカと言われています。人事の基本的な業務である給与や勤怠管理などの管理システムからHRテックが始まりました。1990年代後半には、人材管理から進んで、人材活用が求められるようになります。1990年代のHRテックを前半、後半に分けてみていきましょう。

2-1 【1990年代前半】給与管理・勤怠管理ツールの登場

今でこそ、給与の計算や出退勤の管理などは、手計算・記録ではなく、ツールを利用して行われていますが、もちろんツールがない時代もありました。

1990年代前半のアメリカにおいて、HRテックの起源とも言える給与管理ツールや勤怠管理ツールなどの労務管理に関するHRテックが登場します。

好景気によって、企業の利益が増え、その対価を人材に滞りなく支払うこと、利益を生み出すためにしっかりと働いてもらうことが求められたのが、労務管理ツールが登場した背景です。

この頃のツールは、オンプレミス型という形式が採用されていました。オンプレミス型とは、クラウドとは反対に、企業内にシステムを構築する形式です。カスタマイズのしやすさや、セキュリティの高さなどがメリットとして挙げられますが、企業内に構築する手間や費用は大きなデメリットと言えます。

当時は、デメリットの方が大きく、すべての企業で導入できたわけではなく、HRテックの浸透は徐々に進んでいくことになりました。

2-2 【1990年代後半】人材にフォーカスしたツールの登場

1990年代前半は、労働者の管理の面でHRテックが導入され始めた時期でした。1990年代後半は、経済成長、グローバリゼーション、ITバブルなどアメリカの発展の時代とも言えます。

労働者を管理するという側面だけでなく、労働者を人材として捉え、人材をどのように育成するか、どのように優秀な人材を獲得するかといった人材育成・獲得にも目が向けられるようになりました。

人材育成・獲得・評価などの主なHRテックには、SuccessFactors、Taleoなどが挙げられます。SuccessFactorsは評価、Taleoは採用・育成などを担うHRテックです。

この時期は、War for talentとも表現され、人材をいかに確保するかという人材育成競争の時代でした。日本で今言われている人材育成や獲得が20年前から言われていたことになります。HRテックの先進であるアメリカの社会の動きも合わせて把握すると良いでしょう。

3.【HRテックの歴史:2012年頃】ツールのクラウド化によってHRテックが拡大

それまでのHRテックは、アメリカが主流でしたが、2000年から2012年頃は世界的にHRテックが発展し始める転機となる時期です。

2012年頃のHRテックの歴史を捉えるためのキーワードは、「クラウド化」と言えます。これまでのオンプレミス型からクラウドに移行することで、HRテックを導入しやすくなり、急速に成長していきます。クラウド化に注目しながら、2012年頃のHRテックを見ていきましょう。

3-1 HRテック市場の変化

労務管理ツールや人材育成・評価ツールなどのHRテックをオンプレミス型で、企業内に構築していた中で、ツールの運用や管理は独立していました。

ツールやシステムを同じ場所で管理したいという要求から、クラウド化が進んでいきます。クラウド化とは、企業内にサーバーやシステムを構築する必要がなく、インターネットを通じてツール・システムを利用できるようにすることです。

オンプレミス型に比べて、複数のツールを管理しやすく、企業内に設置する手間や費用なども抑えることができます。クラウド化の登場によって、HRテック市場は変化の時を迎えます。

後述するWorkdayをはじめとして、人材管理システムを提供するIBM社、データ管理システムなどを提供するORACLE社などが台頭し、SuccessFactorsやTaleo、評価HRテックであるKenexaなどが買収され、クラウド化に舵を切りました。

3-2 HRテックツール・システムのクラウド化が主流に

HRテックが確立したのは、クラウド化が進んだことが大きな要因です。これまでツールやシステムごとに独立していたHRテックを一元的に管理できるようになり、より効率的に人材の評価、育成、採用などが可能になりました。

システムの構築や費用など敷居の高かったオンプレミス型のHRテックが、買収が進み、クラウド化されることによって、導入しやすくなり、企業にとってHRテックを活用した活動が不可欠となっています。

4.【HRテックの歴史:2015年頃】データを活用した人事施策がトレンドに

HRテックのクラウド化によって、企業とHRテックは切り離せないものとなりました。労務管理、人材育成などの部分にHRテックが導入されることで、業務が効率化されたり、発展したりするなど企業活動に大きなメリットを与えています。

2015年頃には、HRテックそのものの効果と合わせて、HRテックで収集したデータを活用するという面に注目が集まっていきます。データに基づいた人事施策がトレンドになっていく時期です。

4-1 「ピープルアナリティクス」でデータを収集・分析

HRテックが人事の分野にも活用されるようになり、人材に関するデータの収集・分析によって、人材採用、組織づくりに力を入れるようになりました。

人材や組織に関するデータ収集・分析・活用は、ピープルアナリティクスと呼ばれています。人材が流出してしまったり、組織が上手くいかなかったりすることを、直感的に捉えるのではなく、データに基づいて根拠を導き出すことができます。

ピープルアナリティクスは、一人一人の人材に対して、本来の力を発揮できているか、どのような適正があるのかなどの分析から、効果的な人材育成、人材配置を可能にします。個人に合った働き方を実現することにもつながり、離職率を下げる効果も期待できます。

組織においても、ピープルアナリティクスは重要で、組織のデータに基づいて、企業に合った人材採用、報酬体系、研修など組織を活性化する戦略を立てることができます。

人材を大切にし、組織を活性化させるためには、ピープルアナリティクスは欠かせない要素です。

4-2 「エンゲージメント」が離職率の高まりとともに注目を集める

厚生労働省の調査によると、平成29年時点で離職率は14.9%となっています。日本よりも高い離職率であるのがアメリカで、アメリカ人男性は3割以上が入社3年以内に離職してしまうというデータがあります。

企業への定着率をあげることが、人材確保につながるため、日本よりも離職率の高い海外でエンゲージメントという考えが重要視されています。エンゲージメントとは、「愛着」「思い入れ」を意味します。企業に対する愛着を持ってもらい、長く力を発揮してもらうことが、企業の発展にもつながります。

個人がどのように企業に対して考えを持っているのか、どのようにキャリアを考えているのかなど個人をHRテックによって利用することで把握して、企業に定着してもらえるよう、人材に対して働きかけることが重要です。

5.HRテックの最先端を行く企業を知ろう

HRテックの歴史は、労務管理から始まり、人材採用・育成など個を見るところまで発展してきました。オンプレミス型からクラウド化への変化も重要で、多くの企業に不可欠な存在となっています。

HRテックが発展する中で、HRテックを引っ張ってきた企業があります。どのような企業がHRテックを推進してきたかを知ることで、HRテックの歴史の中心を捉えることができます。海外だけでなく、日本のHRテックもピックアップしたため、ぜひ参考にしてみてくださいね。

5-1 クラウド化のパイオニア「workday」

HRテックのクラウド化を先頭で引っ張っていったのが、workdayです。2005年に創立されたアメリカの企業で、世界中の多くの企業がworkdayのクラウドサービスを採用しています。日本で馴染みのある企業としては、SONY、TOYOTA、patagoniaなどが挙げられます。

Workdayは、人事向けのクラウド型HRテックとして、人事や財務のデータ収集・分析を可能にしました。基本的な労務管理、人材管理、分析など多岐に渡る業務を効率化・活性化させます。

企業で働く個人に働きかけるピープルアナリティクスの面も担い、データを用いて人材の育成やモチベーションアップを図ることができます。

HRテックの流れを大きく変えたworkdayは、現在もHRテックの発展を支えています。モバイル端末、タブレット端末、PCといったデバイスの幅も便利で、これからも成長を続けていくと予想されます。

5-2 採用プロセスをオート化するビジネスSNS「Linkedln」

SNSといえば、twitter、facebookなどをイメージする方がほとんどでしょう。プライベートにも、ビジネスにも活用ができ、若者から大人まで誰でも使っているツールです。

SNSの中でも、ビジネスに特化したSNSに、Linkedin(リンクトイン)があります。Linkedinに登録すると、ビジネスパーソンや企業とつながることができます。

企業はLinkedinで見つけた魅力的な人材にアプローチすることができます。求職者から企業へアプローチするという側面の強いビジネスシーンのマッチングですが、企業からアプローチすることによって、人材の採用プロセスを企業目線でオート化することができます。

人材を待つのではなく、取りに行くことで、企業にとって必要な人材を確実に確保でき、企業の発展につながります。ダイレクトメールなどでコンタクトをとることもでき、個人についてリサーチしてから採用することで、エンゲージメントの面でも効果的なHRテックサービスです。

5-3 日本のHRテックの代表「SmartHR」

SmartHRは、日本におけるHRテックの代表です。俳優の速水もこみちさんが、CMに出ていたこともあり、見たことがある人もいるかもしれません。

クラウド型人事・労務ソフトとして、日本の多くの企業が導入し、毎月1000社以上が新たに導入しているというデータがあります。

労務管理や情報管理の効率化が主なメリットで、定形的な業務の時間・手間を減らすだけでなく、ペーパーレスでデータを一元管理することで、資料の活用のしやすさも魅力です。

6.これからのHRテックはどうなる?

アメリカを中心に発展したHRテックは、今後日本でも導入が広がっていくことは間違いないでしょう。

海外よりも転職が活発ではないという点では、HRテックにより、企業が求める人材を採用することや既存の社員を育成することができるようになります。人事活動において、人材の確保が中心となりつつあり、Linkedinなどを活用して、人材にアプローチする必要もでてきます。

海外に比べると離職率は低いですが、フリーランスや副業など新たな働き方が注目を集め、これからは企業に就職するのが当たり前ではなくなってくるでしょう。企業からフリーランスになる人も増えると考えると、ピープルアナリティクス、エンゲージメントが重要になります。人材が定着するためにはどのような戦略が必要かを分析し、実行することが求められます。

そうしてアメリカでの発展と同じように、労務管理から人材の採用、育成などに進んでいくことが予想されます。

7.歴史を重ね不可欠な存在となったHRテックを導入しよう

HRテックの歴史は、アメリカを中心に、労務管理から人材に目が向けられるようになり、ツールを一元管理できるクラウド化が実現され、今に至っています。HRテックによって業務の効率化、活性化を実現できるため、これからさらに浸透していくことが予想されます。企業を発展させるために不可欠な存在となったHRテックの導入をぜひ検討してみましょう。

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