HRテックの今後はどうなっていくのか

人事業務の効率化には「HRテック」の導入が効果的、というニュースを最近よく目にします。しかし、HRテックで実際に何ができるのか、今ひとつ分からない方も多いのではないでしょうか。

この記事では、HRテックの導入が進む背景や、「採用」「労務管理」「人事管理」におけるHRテック活用例、HRテックの導入によるメリットについて解説します。

HRテックが実務でどのように活用されているのか、今後どう進化していくのかを考えるうえで、ぜひ参考にしてください。

 

HRテックとは

HRテック(HR Tech)とは、AIやクラウドなど最新技術の利用により、業務の効率化など、人事業務における課題を解決する手法を指します。

HR(Human Resources)とテクノロジー(Technology)の2つの単語を組み合わせて作られた造語です。

HRテックの導入が進む背景

アメリカと比べると、日本におけるHRテックの導入は遅れていました。

理由として、日本企業では給与などの計算方法がある程度パターン化されている点などが挙げられます。

再就職や成果主義が盛んなアメリカと比べると、日本では新卒採用制と年功序列制が主流のため、従業員のキャリアパスが一律化されていました。

そのため、これまでは人事担当者もHRテックを導入せずとも対応できていたのです。

しかし、最近は日本でもHRテックの導入が盛んになってきています。その背景を解説します。

人手不足のため人材の多様化が進む

近年の人手不足を受け、日本企業は優れた人材を獲得するために、国籍にとらわれない世界的な採用を進めています。

また、中途採用の増加や従業員の非正規化など、新卒採用から定年まで辞めずに働くというキャリアパスに該当しない従業員が増えてきました。

人材の多様化に対応した人事システムの必要性

このように、多様化する人材が実力を最大限発揮できる環境づくりのためには、人事評価基準のグローバル化など、客観的かつ公正な根拠に基づく組織運営が必要です。

そのため、人事担当者の印象や記憶に頼りがちだった人事情報の可視化や、AIなどの力を活用し客観的な判断に基づいた採用や人材配置に向けた取り組みなどが進んでいます。

また、人手不足は同時に、人事部門のマンパワーが不足することでもあります。

そうしたなか、多様な人材の評価と適正な人材配置という新たな課題解決のために、人事部員に求められるのは高いパフォーマンスです。

そのため、HRテックの活用により、業務の自動化や削減に努める必要が出てきました。

こうした背景から、HRテックの導入によって、新たな人事システムの構築や定形業務の効率化などを進める企業が増えています。

「採用」「労務管理」「人事管理」におけるHRテックの活用例

では、HRテックを導入することで、どんな領域の課題を解決できるのでしょうか。

ここでは、主に「採用」「労務管理」「人事管理」の3つについて解説します。

採用におけるHRテックの活用例

採用領域におけるHRテックの活用例として、「採用業務の一元化と可視化」「採用判断の自動化」「ソーシャルリクルーティング」「Web上での面接実施」を紹介します。

採用業務の一元化と可視化

採用業務には、膨大な数の手続きが必要です。

たとえば、多数の応募者ごとに、経歴などの個人情報、選考日程、書類や面接での評価などのデータを、秘密を保持しつつ整理・保存しなければなりません。

さらに、複数の転職サイトにおける情報発信や更新、SNSとの連携、人材紹介会社への依頼なども行う必要があります。

HRテックのサービスを利用すれば、こうした全手続きの一元管理と、応募者ごとのデータを分析・可視化が可能です。

例として、株式会社ビズリーチの「HRMOS(ハーモス)採用管理」は、求人作成や応募者の情報管理、採用活動中のコミュニケーション、進捗確認や分析などの業務を一元管理できます。

応募者ごとの面接官による評価や、応募者数・面接実施数など、採用活動にまつわるデータのリアルタイムな可視化・分析が可能となり、採用の判断や採用活動の改善などに役立ちます。

採用判断の自動化

採用業務の一元化により可視化・分析されたデータをもとに、応募者を採用するかといった判断をAIに委ねて自動化することも可能になります。

PRaiO(プライオ)」は、株式会社マイナビと株式会社三菱総合研究所とで共同開発された書類選考AIツールです。

応募学生のエントリーシートから「自社における採用優先度」「学生の人物像」「内定辞退可能性」を予測します。

AIが、過去のエントリーシートにおける文章と、選考情報や辞退実績などとの関係性を学習して独自の診断モデルを構築し、採用優先度や辞退可能性を5段階で評価します。

また、ネット上の文章データから、リーダーシップなどの6つの軸における人物像のスコアリングを行い、人物像を診断します。さらに、エントリーシートの剽窃診断も可能です。

現時点では、採用判断のすべてをAIに委ねるのは現実的ではありませんが、徐々にAIの関与が増加していくかもしれません。

ソーシャルリクルーティング

ソーシャルリクルーティングとは、FacebookやTwitterなどのSNS(ソーシャルネットワークサービス)を通じて、採用活動を行う手法を指します。

企業はSNSを通して、採用情報の発信や応募者とのやり取りを行います。

また、応募者のFacebookなどの情報から人間性などを判断し、採用を決める材料にすることもあります。

ウォンテッドリー株式会社が運営する「WANTEDLY」は、月間200万人が利用しているビジネス用のSNSです。

「WANTEDLY」を通して、応募者は気になる企業を見つけてエントリーでき、メッセージをやり取りして訪問日程を決めたら、気軽に会社訪問も可能です。

企業側からも、プロフィールが気になる人材をスカウトなどのアプローチができます。

Web上での面接実施

現在注目されている採用プラットフォームが、採用面接をインターネット上で行える「HireVue」です。

録画・ライブ形式を取っており、応募者と採用担当者は、パソコンやスマートフォンなどから時間・場所を問わずに面接や評価を行うことができます。

さらには、面接の録画をAIが言葉・音声・態度の観点からパターン分析し、活躍が予想される人材かの判断サポートも可能です。

開発はアメリカですが、30ヶ国語以上に対応し、日本でも80社以上で活用されています。

労務管理におけるHRテックの活用例

労務管理におけるHRテックの活用例として、「定型業務の自動化」を紹介します。

定型業務の自動化

これまで、従業員の入退社、引越しや慶弔、昇進などに際して、社会保険などの手続きや住所変更、手当申請などの定型業務が、人事部門の業務を圧迫してきました。

従業員が紙の書類を記入し、人事部門でシステム入力などを行うのは、双方にとって負担でした。

HRテックの導入により、定型業務における個人情報入力を、従業員自身に担ってもらうことが可能となります。

たとえば、株式会社SmartHRが提供する「SmartHR」は、毎月1,000社以上が導入しているクラウド人事労務ソフトです。

入社にあたって、従業員が個人情報を直接入力します。雇用契約書や入社の手続きもペーパーレスで、印鑑も必要ありません。

従業員が入力した情報は、社員名簿として集約され一元管理されます。

住所変更などが発生したら従業員が自分で修正入力するため、社員名簿は常に最新です。

面倒な入退社手続きは、社会保険などの加入書類が自動で作成されます。

総務省などが提供のAPIと連動し、Web上から電子申請できるのが魅力です。

給与明細はWeb上で閲覧できるためペーパーレス、年末調整もWeb上で質問に答えるだけで手続きが完了し、人事担当者が社内に用紙を配布・収集したり、データを入力したりする手間が大幅に省かれます。

人事管理におけるHRテックの活用例

人事管理領域におけるHRテックの活用例として、「人事管理業務の一元化と従業員のパフォーマンス分析」「離職率の低下防止」「社内コミュニケーションの可視化」を紹介します。

人事管理業務の一元化と従業員のパフォーマンス分析

ワークデイ株式会社が運営する「Workday」は、人事や財務を単一システムで管理します。

米国企業ではCoca-cola、IBM、HPなど、日本企業でも日立製作所や日産自動車、ソニーなど錚々たる企業が人材管理のために使用しているクラウドサービスです。

「Workday」の主力サービスである、人事管理システムの「HCM(Human Capital Management)」は、「人事管理」「タレントマネジメント」「採用・人員計画など」の大きく3つの機能を管理できます。

HCMの「人事管理」は、従業員の個人情報、給与、休暇数や福利厚生などの人事情報を管理します。

HCMの「タレントマネジメント」は、従業員の目標・パフォーマンスや、能力開発プランなどの情報管理を行います。

一般的にタレントマネジメントとは、従業員が持つタレント(talent:才能や資質など)やスキルなどの情報を管理し、効果的な人材配置に役立てる手法のことです。

人事・財務をひとつのシステムで統合管理することにより、従業員ごとに達成した売上とかかった経費の把握・分析が可能になり、従業員のパフォーマンスを分析できます。

離職率の低下防止

同じく「Workday」では、AIによるビックデータ分析と機械学習によって、離職率の予測と離職の可能性のある人材の特定が可能です。

「Workday」と同様のクラウドサービスである「Oracle HCM Cloud」においても、従業員の勤務・残業時間や有休取得数、健康診断データなどから、士気を高める働きかけのポイントを提示してくれます。

従業員の離職防止や、健康やメンタルヘルスの改善により、働きやすい職場づくりや採用コストの削減などが期待できます。

社内コミュニケーションの可視化

スタートアップ企業のLaboratik(ラボラティック)が提供する「We.」は、グループチャットツールの「Slack(スラック)」におけるチャットをAIが解析し、チーム状況を可視化するツールです。

Slackの発信回数とチャットの感情量、各メンバーの相手ごとのチャット回数を数値化し、それぞれを掛け合わせてチームスコアを数値化します。

メンバー間の関係などの可視化により、社内コミュニケーション上の課題が見え、改善策を立てやすくなります。

HRテックの導入によるメリット

「採用」「労務管理」「人事管理」の領域におけるHRテックの活用例を踏まえて、そこから導き出される、HRテック導入によるメリットを解説します。

業務の効率化

HRテック導入による最も分かりやすいメリットは、採用業務の一元化や定型業務の自動化・削減などによる、業務の効率化です。

これまでは、煩雑な定型業務に忙殺され、本来の仕事である組織・人材開発の戦略立案まで手が回らない人事担当者も多かったでしょう。

自動化などの業務はAIに委ねて、人間しかできない本質的な業務に時間を割くことができるのは、大きなメリットとなります。

人材データの一元化・見える化

HRテックの導入により、担当者個人のExcel管理を脱して、人材データを一元化・可視化できます。

これは、全国に多数の店舗や従業員を抱える企業にとっては、全国の人材データの閲覧や条件に従った検索が可能となり、プロジェクトへの人材配置などを考えるうえで大きなメリットです。

さらに、人材データの可視化と分析により、組織が持つ課題が浮かび上がってきます。

「Workday」などの事例にあったように、社内コミュニケーションの可視化や離職率の予測なども可能です。

把握できた課題に対して改善策を実行することにより、人材データを組織運営に活用できます。

たとえば、社内コミュニケーション活発化のために、チームミーティングを定例的に実施して実施前と後のデータを比較するなど、PDCAに沿った組織運営に役立ちます。

中立性の高い採用

「PRaiO」などの事例にあったように、HRテックの導入によって、採用判断の一部の自動化が可能です。

エントリーシートの文章や、録画した面接といった動画など、数値化できない要素も加えた総合的な判断となります。

人間である面接担当者が判断する場合は、思い込みや偏見といったバイアスがどうしてもかかる傾向があります。

現時点では、すべての採用判断をAIに委ねるのは現実的ではありませんが、データの蓄積により、最適なマッチングや中立性の高い採用判断に向けて機械学習を積み重ねできます。

能力開発の個別化

「Workday」のタレントマネジメント管理例など、HRテックの導入により、従業員を能力開発の視点から管理できます。

これまでの能力開発といえば、研修とOJTの組み合わせなど、ある程度画一的なものでした。

しかし、従業員の経歴や希望するキャリアパス、受講した研修履歴などを、ビックデータをもとにAIが分析することにより、個人の能力や資質にもとづいた能力開発を提案できるようになります。

人手不足や人材の多様化を背景にして、能力開発の個別化は必須となっていくでしょう。

まとめ

HRテックとは、AIなどの最新技術を活用して、人事業務を改善する手法です。

多様化する人材に対応する人事システムの構築や、人事部門のパフォーマンス向上のために、HRテックを導入する企業が増えてきています。

この記事では、「採用」「労務管理」「人事管理」におけるHRテックの活用例を紹介しました。「一元化」「可視化」「自動化」「データ分析」などがキーワードです。

HRテックの導入によるメリットには、「業務の効率化」「人材データの一元化・見える化」「中立性の高い採用」「能力開発の個別化」が挙げられます。

HRテック導入のポイントは、AIに任せる業務と、人間が行う業務の選別です。

自動化・効率化できる業務はAIに委ねて、人間しか行うことのできない業務への時間やコストの注入が重要となります。

AIにはできない対人コミュニケーションなどの人事スキルを磨いて、現場で必要とされる存在を目指しましょう。

人手不足のため、会社が人事部門に割けるマンパワーが減るなか、人事のパフォーマンスや役割を増大するには、HRテックの導入が必須となってきます。

可視化される人事データを活用し、根拠をもって客観的に人事施策を提案できる人事担当者が、今後ますます必要とされるようになるでしょう。

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