トレンドを知る これからのHRテック

はじめに

クラウドサービスやAI、ビッグデータやバーチャルリアリティーなど、私達を取り巻く社会は急速にテクノロジーの恩恵を受けています。人事業務であれば、やはり抑えておきたいのがHRテックです。HRテックは、欧米から広がり、日本企業でも徐々に導入されつつありますが、最近のHRテックのトレンドについて知っておくとよいでしょう。

 

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1.HRテックは急速に普及している

HRテックは、ヒューマンリソーステクノロジーを略した言葉で、従来人の手で行ってきた人事業務にテクノロジーを取り入れることです。これは、人事管理や労務管理などといった管理業務から実際のロボットやAIを使った面接業務まで、とても幅広いのが特徴です。HRテックは人材関係会社などさまざまな会社からリソースが生みだされており、工数が抜本的に削減できるだけでなく、自社に合うところのみを取捨選択して利用できることから、急速に広がってきています。

HRテックは年間300を超えるプログラムが世に出ていますが、人事管理や給与業務などといった従来あったシステムから、近年注目されている採用管理やアセスメント、教育研修、コミュニケーションツールまで幅広いことが特徴です。現在はクラウドなどを用いてプログラムの導入が中心になっていますが、徐々に「労働力に変わるもの」として期待されています。

具体的には従来であれば給与計算や勤怠計算といった多少効率化されているところを技術の力で抜本的に改革、すなわち「省力化」をしていたものの、AIやロボットを使って、従来人がやっていた採用選考業務、たとえば書類選考業務などを「代わりに」できるようになるとされています。HRテックは、労働効率化、という視点だけではなく労働力の代わりとして期待されています。これは、少子高齢化とともに近いうちに発生する労働力不足の代わりとなるものとして期待されています。

2.採用管理システムの自動化

人事部においてし採用業務はいわば「聖域」というもので、自動化するのが非常に難しいところです。多くの企業が、人事管理システムは取り入れていても、採用については結局人の手で選考しなければならない、と思っている人事担当が多いからです。求人応募や応募者管理ではコンピューターを使って多少の省力化はできたものの、結局書類選考や面接試験は、人が試験するものと思っていました。しかしながら、最新のHRテックでは、AIを用いて採用試験を行うプログラムもあります。

加えて従来であれば採用は採用、入社手続きは入社手続き、研修は研修といったように細切れで業務を行っていたものが、応募者管理から応募者とのコミュニケーション、書類選考やビデオ面接機能など、採用から内定まで一連の動きをシステムの中で行え、人の手が介在する部分は最小限で抑えられています。人事採用部門で技術革新が進まなかった大きな理由として、「応募者の母集団を充実させ、そこから労力をかけて有能な人材を採用する」ことが是とされていた部分が大きいのですが、HRテックを使えば、多数の応募者に対応しながらも労力削減ができるという利点があります。

現在のトレンドとしては、採用活動の分析機能や入社手続きまで自動化するツールが登場しています。教育にしてもロボットが自動的に行ったり、一人一人のスキルにあった教育をイーラーニングなどで実施できます。就職協定の関係などから新卒採用に使うことができる時間が限られており、加えて入社手続き、研修と、新卒採用が同時期に行われ、毎年3、4月はブラック企業化する企業も少なくなかったのですが、AIを使うことにより抜本的に労働力が削減できます。

3.中途採用者へのアプローチが可能に

少子高齢化で労働力不足が見込まれる中、多くの企業にとっては有能な人材を確保するのは至難の業です。また、リーマンショックや氷河期世代の採用抑制がたたり、世代間の差が激しいと悩んでいる企業も少なくありません。それゆえに中途採用者に対する期待も高まってきています。今までは、中途採用というと人材業者にあっせんをお願いしたり、自社ホームページから採用を募っているだけのいわば「受け身」な活動が中心でした。それゆえにほとんどの応募が「もう転職を決めている」人に限られていました。そのため、中途採用はどうしても限られた人材の中から選ぶ、ということになっていました。

これが、HRテックを導入することで転職活動をしていない人とも接触することが可能になります。ビッグデータの分析や、AIの進化によって、人材会社に登録されているデータは勿論のこと何気ないSNSの発言などから、優秀な人を採用できるようになります。AIを使えば、SNSの発言や個人データなどから相性の良い会社員を探し出し、スカウトをすることができるようになります。こういったことを「新型プラットフォーム」と呼びますが、すでに転職市場が活性化している欧米では取り入れられていることです。

今後日本においても、こういった能動的なアプローチができるようになるので企業が優秀な人をスカウトするのが当たり前になり、より労働市場が活性化すると思われます。今までの経歴やSNSの発言などからその人の人となりを分析し、自社にマッチングするかどうか判断することが出来るテクノロジーの発達は、中途採用における「優秀な人材だが自社の社風と合わずに早期退職する」といった課題を解決するといった観点からも期待されています。

4.リモートワークが可能になる

最近では自宅やカフェなどいたるところにWi-Fiが少整っています。そのような環境の奏で期待されるのがリモートワークの環境構築です。特に少子高齢化により労働力不足が懸念されていますが、そういった労働力不足の原因として挙げられるのが育児や介護で離職をする人です。リモートワークの設備が整えば、育児や介護、自身の闘病中の社員は出社日数を減らして出勤できるようになり、より働きやすい環境が構築できます。

最近では、VR(バーチャルリアリティー)を活用して、自宅にいながらもまるでオフィスにいるかのようにふるまえるロボットが開発されています。たとえば、自分のオフィスにロボットを置き、家で連携させたVRを見ることで、自分がまるで出社したかのような環境になります。まだまだ開発途中ですが、これらのシステムが導入されると、育児や介護、闘病中のヒトだけではなく、普通の人も通勤ラッシュの負担が多少軽減されるでしょう。

加えて、リモートワークのシステム、すなわちオフィス以外でも会議や打ち合わせができるシステムは、採用面接にも対応できます。パソコンやスマートフォンを使って、ウェブカメラで面接をすれば、いちいち会社に行かなくてもWi-Fi環境の整っているところでなら採用面接が受けられます。なかなか時間を取ることが出来ない地方の大学生や、忙しい転職中の人にもピッタリです。こういったWeb面接、Web会社説明会を取り入れる企業は、今後も増えてくると思われます。

5.コミュニケーションツールとしてのHRテックの活用

HRテックの導入は、会社の労働工数を飛躍的に削減するだけでなく、従業員にとって幸せな環境を作り出すことに使うことができると期待されています。これは、単に採用ツールとしてHRテックを使うだけでなく、最近ではもっと踏み込んだサービスがあります。コミュニケーションツールとして優れているAIは、どういった言葉を使うと求職者の心を動かすかをデータ化し、そして分析します。

特にどこの会社もよい人材を採用していて、市場では競争があることも珍しくありません。AIがアピールするポイントやそれを聞いた被面接者の対応などをデータ化することで、来てほしい人材にはより効率的なアピールができます。そういったことを続けていると、人事部は候補者宿直面の時間をより増やすようになります。そのため、こちらからスカウトした人材が入社する確率が高まるのです。単に事務効率を上げるだけでなく、失敗しない採用活動をするために使われるのが、今後のHRテックのトレンドとなるといえます。これは、入社してくる社員にも言えることで、面接時の接し方ひとつでその後の定着率にも変わってきます。こういった見方は日本ではまだ未開拓な部分があるのですが、転職市場の活性化している欧米では行われ、徐々に日本に入ってくると思われます。

また、わかりやすいコミュニケーションツールとしてHRテックを導入することもあります。たとえば、飲食店や小売店などでは従来、従業員に何かを通知するときは、本社が店長など幹部職員や正社員を通じて行っていました。しかしながらこれらの業界は非正規社員化が進み、また慢性的な人手不足であることから、本社の指示を現場でコンピューターツールを使って伝えたり、現場にいる非正規社員とコミュニケーションを取ったりする技術はすでに導入されています。こういったことで、職場の労務管理を本社が一手に引き受けるので、サービス残業などの問題も解決できます。

6.HRテックの導入で、ますます仕事は効率化する

HRテックの導入のそもそもの目的は、仕事の効率化の延長線上である、そんな企業が多く、これは企業規模の大小にかかわらず今後も継続されていく流れです。このなかでも仕事の効率化というのは、もちろん人事部門自体の仕事の効率化があります。給与計算や勤怠管理など、近年法律も変わり複雑化しているのを、従業員の勤怠入力から給与計算、各種届け出まで一気にクラウド上で行うので人事部の工数は明らかに削減されます。今後はそれが正社員だけでなく、パート従業員や内定者にも広がりを見せていくでしょう。採用活動においても、会社説明から書類選考など厄介なところをコンピューターでできるので、工数はさらに削減されるでしょう。

HRテックは、人事部はもちろんのこと、会社の従業員全体の業務効率化へ役立つツールとなるでしょう。従来は現場任せにしていたパート従業員の採用や簡単な研修については、HRテックを行うことで簡単にできるようになります。応募者の管理から面接、勤務条件のすり合わせまでコンピューター上で行い、また現場に出るための教育研修プログラムもあるので、それだけで現場負担が少なくなるでしょう。

人事部が従来行ってきた人事異動や人事戦略といった分野でも、HRテックを使えばすでに登録されている社員のデータから、必要とする人材をピックアップすることが簡単になります。長年、特に中小企業では経験と勘によって行われてきた人材配置や人事異動などを戦略的に行えるようになるので、それだけ成果を上げやすい人員配置ができます。

7.今後、HRテックはさらに進んでいく

従来であれば、減少する労働人口に対し技術の力でそれを補完する、そんな役割だったHRテックが、今後は人工知能などを使ってもっと分析的に行えるようになります。採用についても、自分達が求める人材をデータ化して選考してくれるようになるかもしれません。AIによる選考にはまだ抵抗感を示す人もいるでしょうが、書類選考からAI選考が徐々に導入されています。

AIによる選考というと、コンピューターに人間が判断されているようで抵抗感を示す人でもこの採用には実は大きなメリットが隠されています。それは、採用活動が公平に行われていることをしめすからです。面接官による面接は、どうしても面接官ごとの当たり外れがあったり、人によっては学歴や肩書、性別などで判断するため、公然と採用差別が行われてきたのではないか、というような会社もありました。AIによる選考を導入することで採用活動の公平性が保てるといったメリットもあります。

今後は、複雑な社会環境のなかで、HRテックは分析ツールとしても役に立つでしょう。ともすれば上司に任されていた社員教育一つにしても、下手をすればパワハラになりかねないような振る舞いをすることもあります。しかしながら、教育研修システムを導入することで、その職場に応じたそして人事の意向に沿った教育研修が可能になります。

また、分析ツールとしてもHRテックが役立つと考えられます。一昔前は、社員が退職するのは仕方がない、というように考えていた会社でも、社員の動向を分析し、入社面接時の発言やこちらのアピールポイントなどを分析して定着率をあげるためにはどういったところをアピールし、どういったとこ櫓を改善したらよいかわかるからです。これは、意に沿わない入社やミスマッチが防げるので、新たに中途採用をしなくてよくなるといった人事部側のメリットもありますし、社員にとっても働きやすい環境になるといったメリットもあります。HRテックは、単に事務効率化を超えてどうしたら社員が気持ちよく入社し、気持ちよく働くことが出来るのかを知るのです。

8. HRテックの課題について

HRテックは採用、労務管理、人事評定などいろいろなシステムがあり、多岐にわたっています。そのなかで自社に合ったシステムに絞って購入することもできることからポピュラーになっています。しかしながらたくさんのシステムが世に出る中で、新しいシステムだからと飛びつくと、自社にあっていないという問題もあります。そのため、新たにHRテックを導入するのであれば、まずは自社の課題を明確にすることが大切です。それからそれに合致するシステム、そういった問題を解決するシステムを見つけるのが良いです。

もう一つ、テクノロジーは飛躍的に進化してきますが、どこまでをテクノロジーの力で行うか、ということが非常に大事になってきます。AIが代わりになる職種があるとしたら、そういった仕事をしている人材をどのように配置するか、といった問題もあります。早すぎるテクノロジーの進化に人事部のほうが付いていけないといった課題もあるでしょう。

しかしながら、働き方改革関連法案の施行もあり、働く現場は大きく価値観の転換を迫られています。HRテックを導入することで業務の効率化はもちろん、職場環境についても考えていかなければなりません。そのようななか、モチベーションを維持して働きやすい職場にするためにもHRテックを導入することが必要になります。

終わりに

最近のHRテックの進化はすさまじく、採用活動現場は変わりつつあります。そのなかで新卒採用を効率化してより多くの応募者が受けやすくなるだけでなく、中途採用については今までの「待ち」の姿勢ではなく自ら良いと思った人材をスカウトできるようになります。もちろん採用現場だけでなく、今働いている社員の職場環境にも、コミュニケーションツールとして、業務効率化を果たすテクノロジーとしてHRテックはより評価されるようになります。自社の課題を見つけながら、自社にあったシステムに絞って導入するのも最近のトレンドの一つです。

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