AI採用活動、AI面接。そのメリットとデメリットとは何か?

「AI採用活動」と聞くと、遠い国か遠い未来の話のように聞こえる人もいるかもしれませんが、既に日本でも5000人以上の大企業では25%の割合でHRテックによるAI採用選考を行っています。AI採用選考や、AI面接官などのHRテックが次々に開発されている中で、AI採用活動のメリットとデメリットをお伝えしていきます。AI採用というものにフォーカスし、採用のあり方について考えてみましょう。

 

大企業でAI採用が導入される理由

前述したように日本の大企業では約25%程度の企業が、選考における何かしらの段階でAI採用選考を行っています。一方で、日本の企業全体から見るとAI採用選考を取り入れている企業はわずか0.4%に過ぎません。つまり、HRテックによるAI採用は現在のところ、日本ではほとんど大企業でしか行われていないということです。ではこの大企業でAI採用が導入される理由は何でしょうか。

マイナビの大学生就職意識調査によると「どんな企業で働きたい?」というアンケートについてこれまで約20年1位だった「自分のやりたい仕事(職種)ができる会社」という回答を押しのけてトップになったのが「安定している会社」(全体の約40%)という回答でした。

<マイナビ 大学生就職意識調査より「どんな会社で働きたい?」>

1位「安定している会社」39.6%

2位「自分のやりたい仕事(職種)ができる会社」35.7%

3位「給料の良い会社」19.0%

「自分のやりたい仕事(職種)ができる会社」より「安定している会社」を選ぶ大学生が多いのはある意味ではショッキングなニュースです。この調査で、「休日・休暇の多い会社」などがポイントアップしていることからも現在の学生は、安定性を重視しワークライフバランスを重視する傾向が強くなっているということが良くわかります。

「安定していて給料が高い」という条件で就職を探すとどうしても大企業への就職を目指す傾向はより高まるでしょう。いわゆる「大企業志向」という考え方ですが、ここ数年でまたこの傾向が一層高まっているようです。つまり多くの学生が大企業に向けてエントリーシートを提出するということになります。

一方でその採用選考を行う大企業では、その全てのエントリーシートを1枚1枚見たり面談を行うのは、非常に時間がかかります。だからといって、その中には将来有望な人材が埋もれている可能性もあるので無視することできません。そこで大企業の人事がまず考えたのがAIを使ってフィルターをかけるということでした。

HRテックで開発されたAI採用テクノロジー

NECはこうしたAIによる採用について積極的で、既にAIが履歴書を読み込む技術を完成し導入しています。それだけでなく、その履歴書のデータをAIに蓄積させることでその会社が採用した人材像をつくることも可能にしました。例えば、「粘り強い性格の人材を採用したい」と考えている企業では履歴書の「地道に一歩ずつ成長したい」「日々の積み重ね」という文字に反応するようになるのです。

履歴書のフィルタリングだけでなく、実際にAIが面接を行うテクノロジーもあります。タレントアンドアセスメントが開発した「SHaiN」というHRテックは、スマートフォンを通じてAIが面接を行うというものです。24時間、365日、世界中どこでも面接を受けられるようにしたこの「SHaiN」は各企業の人事でも大きな話題となりました。このHRテックは「戦略採用メゾット」に基づき、面接者に対して質問を行い、その結果を11項目に分類し面接評価レポートを作成します。

AI面接による方法がこれまで人事担当が行っていたものと大きく違う点が、面接官の評価基準が均一化されるということでしょう。もちろん大企業では1人の面接官で全ての面接を行うわけではありません。面接官にも面接者の潜在能力を聞き出す力が必要ですが、複数の面接官で業務にあたれば経験や個性の差によりどうしてもバラつきが出ます。また、重要な質問を聞き忘れるという失敗もなくなります。

AI採用を行うソフトバンクの例

次に、AI採用を積極的に行っているソフトバンクの例をみてみたいと思います。ソフトバンクは、2017年から新卒採用のエントリーシート選考にIBMの「ワトソン」を使用し、過去の選考データを学習したこのHRテックが応募者のエントリーシートの合否を判定しています。ソフトバンクでは「ワトソン」導入以前は採用担当者10名がエントリーシートを読むだけで年間800時間以上を費やしていました。「採用活動で最も過酷」といわれたこの作業を「ワトソン」は75%削減させることに成功したのです。これは大きな話題となりました。その結果、評価基準が統一されいわゆる「運」による判断というものがなくなり、応募者にその結果をスピーディーに伝えられるようになりました。これは応募者にとってもメリットがあるでしょう。人事は削減された時間を使い「どんなジャンルでもいいからNo.1になった実績がある人を採用」「グローバル採用」「地方創生インターン」などの戦略的な採用方法に時間をかけられるようになりました。こうした大企業でのAI採用の成功事例をみると企業としては、導入しない手は無いように感じます。その一方で応募者はAIによる選考を受けることにどのような意見を持つでしょうか。

ソフトバンクでは、「ワトソン」が不合格と判断したエントリーシートを再度チェックするという方法に切り替えてエントリーシートの選考を行っています。これは、応募者からの「必死で考え、書いたものをAIだけの判定にして、採用担当者が読みもしないのか」という感情を考慮してこういったプロセスを導入しているのです。しかしながら、そのような反応はほとんどなかったようです。どうやら若い応募者たちは、人事採用が考えるよりAIによるエントリーシート判定にほとんど抵抗感を感じないようです。むしろ「平等な判定であること」に一定の評価をしている傾向にあります。

日本の企業の採用方法は、4月に新卒者を採用し各部署に人事配置するというのが基本的な形として定着していますが、世界的に見てもこれは特異なケースであり「企業がその社員を育成する」という考え方も実は海外ではスタンダードではありません。これは「終身雇用制度」が日本で根付いていることが大きな影響があるでしょう。そうした背景がある日本の企業では、新卒採用のためのスケジュールがルーティン化されていきました。その中でも大企業に応募者が偏り、人事はその判定作業に多くの時間を費やすことになります。人事がHRテックに注目したのはこうした時間の短縮、コスト削減に効果的だと判断したためです。しかし、企業にとっての本当のメリットはそれだけではありません。

AI採用を導入するメリット

HRテックによるAI採用を導入するメリットは主に4項目になります。まず、そのメリットを詳しくみていきましょう。

<採用業務効率の向上>

AIによる採用により、人事が行ってきた時間や労力を大幅に削減できることは日本の大企業においてHRテックを導入する一番の動機づけとなりました。履歴書の確認とデータ化、一次面接などの業務負担を減らし、質を向上させることができるのです。採用業務の効率化は企業の経費削減に大きく寄与します。

<AIによる均一な面接の実施>

人間における採用はどうしても客観性がなく、評価がどうしてもバラついてしまうという欠点がありますが、AIの採用においては統一された基準において採用試験を行うことが可能になりました。

<時間・場所を選ばない面接>

人間は1日8時間労働しかできませんが、HRテックを使った採用は24時間の稼働が可能であり、クラウドシステムを使うことで世界中のどこからでもアクセスできるようになりました。採用の「時間」「場所」を自由にしてしまうシステムは人事において刮目すべき開発です。面接者も企業も移動に使う時間や交通費などを削減できます。これにより地方差がなくなり、より広い地域からの人材採用が可能になるでしょう。

<AIによる採用は配属やキャリア形成までを管理できる>

AIによる人事採用は、その後の人事計画に繋がる動線を確保できるというメリットがあります。そもそも採用というものは、企業の人事から欲しい人材のニーズをヒアリングしてそれに当てはまる人材をその部署に配置するというシンプルなものです。このスムーズな採用ができれば、採用された人間もチームで必要とされやすいため、自然と周囲も手厚いケアをするようになります。その結果、企業と新入社員の双方のミスマッチ早期退職などのリスクヘッジになります。この人事を効率的に行える手段がAIによる採用です。履歴書から面接、入社手続きから配属、その後の活躍までのデータを蓄積したHRテックが企業に合った人材を見つけ出すことができるのです。

一言でいうと、AI採用を導入することは戦略的な人事を行うことができるため、といえるかもしれません。これまでの大企業が行う採用方法では、応募者があまりに多く学歴などの特定の基準で足切りを行うしかなかったという実態もあるでしょう。しかしAI採用を導入することで多くの応募者からその企業によりマッチした人材を広く探すことができるようになるのです。

AI採用を導入するデメリット

これに対し、HRテックによるAI採用のデメリットをそれぞれに詳しくみていきたいと思います。

<データの蓄積にはある程度の時間が必要>

企業における成功例やビックデータからAIは学び、その採用基準を学習していきます。しかしながらHRテックは開発されてまだ年月が経過していないため、長期的にデータを収集することが必要になります。幸いなことに日本では大企業からAI採用が導入されているため、比較的短い期間でその分析ができるようになるでしょう。

<人間の熱意を感じることができない>

営業マンなどで必要なものは「熱意」といわれることもありますが、この「熱意」というものは書面やデータでは判断できません。また、履歴書に手書きで丁寧に書かれていたとしてもHRテックでは単純に文字は文字として認識します。誠実さを感じさせる文字も評価の対象にはなりません。AIにはこういった分野の判断が苦手です。面接者の「熱意」や「やる気」を排除してしまうことがあります。そのため、現段階では最終面接までをAIが行うのは難しいといえます。

<AIを正しく設定、学習させることができるのか>

AIに学習させる方向性を決めるのは、最終的には人が行います。方向性が正しく設定されていればAIは文句も言わずに24時間働き続けることが可能ですが、結局のところ「AIに正しい教育をどのようにおこなうべきなのか」という課題は将来的にも残ってしまうでしょう。

日本でAI採用は根付くか?

日本では大手企業が導入し始めているAI採用は、日本で果たして広まるでしょうか。転職エージェントであるワークポートが転職希望者に行った調査によると、以下のような回答がありました。

<採用活動にAIを導入していることでその企業への志望度が変化しますか?>

1位「変わらない」(64%)

2位「低くなる」(20.3%)

3位「高くなる」(15.7%)

「変わらない」理由としては「企業とその方法は違うもの」だからとする回答が多かったようですが、一方で「低くなる」理由には「データのみで人の良さを見ない選考になる」「個性を認めない会社というイメージが出る」ためという意見がありました。しかしながら、全体的にはAI採用にはそこまで大きな抵抗感を感じていない様子が伺えます。「AIによる面接は公平性が出るために導入をすべき」という意見もありました。

結局のところ、AI採用が根付くかどうかという点においては日本の企業の大多数が占める中小企業の人事の判断による部分が大きいかもしれません。結局のところ、日本においてはAI採用のHRテック導入は大企業が「コスト削減」という大目的を達成するための手段としてスタートしました。人事の中でも「人の魅力は対話でなければ判断できない」「面接がAIにさせるべきではない」という考えを持った人もいるでしょう。しかし、これまでの面接がその企業にとって最適なものだったのでしょうか。

人による面接が果たして「ベスト」だと言い切れるか?

HRテックによるAI採用の技術が進化する過程で、人事はある考えから逃れることができません。それは、AIの是非はともかく「今までの人による面接が果たしてベストであったのか」という疑問です。

人による面接は、面接官との相性や気分で決まってしまう危うさを持っています。また、面接官も人であるためにどうしても採用の基準にバイアスがかかってしまう事実があります。これまで長年面接をしてきた人事には非常に酷な話ですが、人とAIによる採用を比較した場合に必ず「人による面接がふさわしい」と断言することができない段階にまできているのです。多くの大企業がそうであるように、当面は採用の初期段階をAIが対応して最終面接で企業の経営部が対応するという図式がしばらく続くでしょう。

採用は、①多くの応募者を募り、②その中から適任者を選抜し、③面接を通じて入社への動機づけを行うという役割を企業で担っています。このうち、①と②についてはHRテックが得意とする分野であり、③は人が得意とする分野といえるでしょう。企業の採用の方法は時代に適応した形に変化するものです。日本には長く変化は訪れませんでしたが、HRテックの技術が採用にその変革を促したのです。

まとめ

さて、今回はAI採用活動のメリットとデメリットについてまとめ、今後の採用方法のあり方を考えてきましたがいかがだったでしょうか。最後にまとめてみましょう。

・作業効率化のため、大企業ではAI採用が導入されやすい

・新卒者は大企業に就職したいという傾向が近年更に強まってきている

・履歴書やエントリーシートを判定するAIだけでなく、面接をするHRテックが導入されはじめている

・ソフトバンクではエントリーシートの判定をAIが行い、業務75%削減に成功した

・AI採用のメリットは時間短縮、経費削減と戦略人事への舵切りができること

・AI採用のデメリットは人柄や熱意を感じることができないこと

・大企業での成功事例を活かし、中小企業でもAI採用は活性化する

・HRテックが採用のあり方を変える 数十年変わらなかったものが、この先のわずか数年で大きく変わるということがあります。「ある分岐点」を境に、人事のあり方というものが一新される可能性があります。そのきっかけはHRテックになるかもしれません。

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