人材不足を補う対策、取り組みに関して

 

1.人材不足の現状、なぜ人材不足なのか

少子高齢化によって日本の人口は減少し、人材不足が深刻化しています。

これからは人口全体が減るだけでなく、生産年齢人口が減ることにより、企業としては人材の確保が急務となります。しかしながら、多くの企業では優秀な人材を採用するために採用活動に注力していますが、人数を確保することさえ困難であり、従業員の負荷は増えるばかりです。

ところで、なぜこれほどまでに人材不足なのでしょうか。

まず、人材不足を引き起こしている人口動態の変化を、データとして裏付けて、なぜ人材不足が起きているのか解説します。

総務省が2018年7月11日に発表した人口動態調査によると、日本人の総人口は1億2,520万9,603人。9年連続で減少しています。2017年と比較すると37万4,055人減少しました。人口動態調査は1968年から開始されましたが、調査を開始して以来、最大の減少数になります。

生産年齢人口と呼ばれる15~64歳の人口は、7,484万3,915人で、全体の59.77%です。初めて6割を切りました。内閣府では、2060年の生産年齢人口は、4,418万人になると推計しています。

日本の総人口の減少、生産年齢人口の減少は、今後さらに深刻な局面を迎えることは明らかです。

また、求人を行っても、応募者が集まらないことが人手不足の原因のひとつ。

労働力が不足する産業は、特殊な技能が必要であったり、労働条件が厳しかったりするものです。そのような業界への転職は、本人の適性を見極めてミスマッチ防ぎ、新たに教育や研修を行うなど、入社までの調整がとても困難です。したがって余剰な人員を抱える業界や企業があったとしても、その人材を人材不足の業界や企業に振り分けるということは、現実問題としてなかなかできません。

このような人手不足によって、倒産する企業も増加しています。

東京商工リサーチが2019年1月10日に発表した調査結果によると、人手不足関連で倒産した企業は過去最多の387件で、前年比で22.0%増加。このうち、倒産の理由としては後継者難が71.8%を占めていますが、求人難によって倒産した企業は前年の1.7倍の前年比68.5%増になりました。

人材の流動性がないと、どんなに採用活動に力を入れても人材が集まらないため、求人倍率は高くなります。

厚生労働省では、公共職業安定所(ハローワーク)の求人・求職・就職の状況から求人倍率などの指標を一般公開していますが、2019年3月の有効求人倍率は1.63倍で前月と同水準でしたが、新規求人倍率は2.42倍で前月を0.08ポイント下回りました。しかし新規求人倍率は、2009年から上向きに伸びています。

求人倍率が高いと失業者は減ります。しかし、企業側からみれば「採用が激化する」ことを意味します。人手不足解消のために求人を行うこと自体がリスクになり、その悪循環から、倒産するような企業が増えている状態です。

最低賃金が上昇しないことも採用が活性化しない理由のひとつです。

しかしながら、厚生労働省の最低賃金を決める統計ミスが発覚したばかりであり、最低賃金には触れないことにします。

2.人材不足の対策1:女性と高齢者の活用がカギ

人口動態調査でいう「生産年齢人口」は減少傾向にありますが、「労働者人口」に注目したとき、属性別にみると増加傾向にある属性があります。

それが「女性」と「高齢者」です。

総務省統計局の解説によると、「労働力人口」は15歳以上の人口のうち、通学や家事、高齢者などの非労働力人口を除いた人口のこと。「就業者」と「完全失業者」を合わせた数になります。この労働力人口は、全体的にゆるやかに増加傾向にあります。

就業者は収入をともなう仕事を1時間以上した人で、企業に務める従業員はもちろん、通学しながらアルバイトをしている学生や、家事の合間にパートで働いた主婦、そして休業者も含みます。

2018年の総務省統計局による「労働力調査」では、2018年平均の就業者は6,664万人で、過去最多でした。前年比で134万人増加し、6年間右肩上がりの増加傾向です。

■女性の活用

労働力調査で女性の就業率の推移について注目すると、2008年には59.8%だった就業率が、2018年には69.6%まで上昇し、およそ7割の女性が何らかの形で就業しています。これは、政府の「ニッポン一億総活躍プラン」によって、女性活躍が促進されたことが理由といえるでしょう。

政府の政策ゆえに、よく知られたことではありますが、女性の活用が人材不足を補う対策のひとつとして重視されています。

ただし、女性は結婚して家事や育児などと並行して仕事を行わなければなりません。

そこで、テレワーク(在宅勤務)など、多様な働き方を許容する必要があります。さらに、職場におけるさまざまなハラスメントを排除し、女性が働きやすい環境をつくることが重要です。

性差別というわけではなく断言はできませんが、男性が「競争」を重視して闘争本能を発揮する仕事に喜びを見出すことに対して、女性は「調和」を尊び、感性による豊かな発想力を持つ人材が多い傾向にあります。そんな女性の能力に焦点を当て、商品開発に女性をリーダーとして女性だけのチーム編成をしたり、広報や宣伝部門に社内を横断したコーディネイターとして女性を起用したりすることで、社内風土を活性化している企業もあります。

テレワーカー(在宅勤務者)として育児と仕事を両立させながら活躍してもらうためには、社内の他の従業員と孤立しないように、ビデオ会議などを定期的に行い、情報を共有することが大切です。テレワークは時間が自由になる反面、「わたしって忘れられてない?」という不安も抱くことが多いといえます。テレワークで重要になることは「コミュニケーションとチームワーク」です。効率化だけでなく、細かな配慮も求められます。

■高齢者の活用

人口構成の変化により、高齢者の就業率も上がっています。

総務省統計局の「2018年労働力調査」で、65歳以上の就業率の推移のデータをみると、2018年の男女合計では24.3%です。10年前の2008年は19.7%なので、4.6ポイントの増加になります。男女別にみると、2018年では男性33.2%、女性17.4%です。つまり、3割を超える65歳以上の男性が仕事を続けています。

「人生100年時代」と言われ、医療の進歩により、かつての65歳からイメージが変わりました。65歳でも十分に現役として働く能力のある人材も多いため、この労働力を活用すべきです。

たとえば、エンジニアとして研究開発に従事したり、コンサルタントとして中小企業の経営を支援したり、専門分野を究めた高齢者は、長年現場で蓄積したナレッジや技術の蓄積があります。このようなベテラン社員のアドバイスを必要とする企業も多く、プロフェッショナルなシニアと企業をマッチングさせるサービスもあります。

2013年から、60歳が定年であったとしても、従業員が希望した場合、雇用の継続を維持しなければならないように法律が一部改正されました。義務違反の場合、「高年齢者雇用確保措置義務に関する勧告に従わない企業名を公表する」罰則も決められています。

個人の意思を尊重すべきですが、働き続けたい高齢者の受け入れ体制を整える必要があります。しかし最近、高齢者の交通事故が急激に増えています。東京都では、自主的に免許を返納する高齢者も増加しました。高齢者の雇用に際しては「健康と安全を考慮した職場環境づくり」を重視しなければなりません。

3.人材不足の対策2:アウトソーシング/クラウドソーシングを活用する

人材不足を補う対策として、アウトソーシング/クラウドソーシングを活用する方法もあります。

正社員は無期雇用社員であり、日本では原則として一度雇用した社員を辞めさせることができません。派遣社員やアルバイト・パートなどの有期雇用社員は、契約期間が定められていて、契約期間の終了時に更新するかどうかを決めます。しかし2016年から、社会保険の加入対象が501人以上の会社では、週20時間以上働く従業員に拡がりました。その翌年には、労使の合意があれば、500人以下の会社でも条件付きで社会保険に加入できるようになりました。つまりパート社員でも社会保険の対象になり得ます。

しかしながら、企業としては人材を正規・非正規社員として雇用することは、長期的に教育コストなども含めて、企業として責任と負担が生じます。そこで、人的リソースを業務委託という形で社外に「アウトソーシング(outsourcing)」することが、人材不足に対する対策として有望視されてきました。

アウトソーシングのよいところは、繁忙期だけ人材を増員できること、高度専門職に業務委託して社内では不可能な業務や教育に時間のかかる業務を代行してもらえること、煩雑な処理を外部に任せることによって従業員は戦略的な主力業務に集中できることにあります。

企業の基幹部門のすべてを外部委託するアウトソーシングを、BPO(Business Process Outsourcing)と呼びます。本社のバックオフィス部門である、総務、経理、人事などを外部に委託します。

特に、お客様からの問い合わせに対応するコンタクトセンター(コールセンター)などは、大規模なアウトソーシングが行われている分野です。BPOは一般的なアウトソーシングとは異なり、継続的に企業の業務プロセスを一括して代行します。しかし、BPOは深く業務を支援するため、「BPO先の企業から顧客情報が漏えいした!」などということがないように、ISMS認証を取得しているなど、セキュリティや実績のある企業を選択することが重要です。

アウトソーシングから派生した業務委託形態として、クラウドソーシングがあります。これはクラウド上のマッチングサービスで、依頼したい案件をインターネット上のWebサイトで公募して、応募者の中から能力の高い個人もしくは法人に依頼します。

大手クラウドソーシングとしては「クラウドワークス(CrowdWorks)」、「ランサーズ(Lancers)」が総合的なサービスを展開しています。システム構築からデザイン、ライティングなどを任せることができます。

最近では主婦に特化したサービスや、マイクロタスク型で小規模な案件のみ請け負うクラウドソーシングのサービスも生まれました。

4.人材不足の対策3: ITによる業務効率化

大企業を中心に、従業員の煩雑な作業をITで処理して人材不足に対応する動きもみられます。特に、AI(人工知能)のめざましい発展により、人間の仕事をシステムに代替させて業務効率化を図ります。そのひとつとして注目されているのが、RPA(Robotic Process Automation)です。

RPAをOCRと連携させることにより、これまで手書きの注文書をパソコンに入力していた作業は、画像認識の技術により、OCRに読み込ませた書類を自動的にテキストとしてデータベースに格納できるようになります。検索や分析も可能です。

とはいえ、中小企業では潤沢な予算をITに投資することは困難かもしれません。

そこで「IT導入補助金」などの制度を利用するとよいでしょう。

あらゆる補助金にいえることですが、IT導入補助金にも審査があり、必ずしも支援を受けられるとは限らないことに留意しておく必要があります。しかしIT導入補助金により、2019年には下限額40万円、上限額450万円の半分を経済産業省が補助します。

補助の対象となるITツールには、財務会計ソフト、顧客情報を管理するクラウドシステム、社内情報やコミュニケーションの活性化を行うシステム、飲食店でタブレットなどを使ったセルフオーダーシステムなどがあり、IT導入で人材不足による生産性のマイナスを補おうとする中小企業にとっては、大きなチャンスではないでしょうか。

5.情報サービス業の対策と取り組み

人材不足といっても、すべての業界が人材不足というわけではありません。深刻な人材不足に陥っている業界と、比較的人材を確保できている業界があります。

帝国データバンクの『人手不足に対する企業の動向調査』(調査期間:2018年1月18日~31日、調査対象:全国2万3,089社、有効回答企業数:1万161社、回答率44.0%)によると、業種別では「情報サービス」が74.0%と人手不足のトップでした。つまり、回答した4社のうち3社は正社員の人手不足ということになります。

情報サービス業は常に新しい技術を学ぶ必要があり、AIに関しては機械学習などがあらゆる業界で活用されているため、データサイエンティストを筆頭に、常に人手不足状態が続いています。

この対応策としては、外国人エンジニアの採用が考えられます。

グローバル化にしたがって、人材不足を補うために外国人労働者の採用も活発化しています。アメリカに限らず、中国の技術者なども優秀です。

しかしながら、外資系企業の社内風土を体験すれば分かりますが、多くの外国人労働者はキャリアアップのために、企業を転職することは常識である、と考えています。そこで、研修などに参加させて、やっと戦力になったかと思うと、あっさり辞めてしまうこともありがちです。辞めてしまうどころか、自社で学んだスキルやノウハウを競合企業で発揮したり、独立して自社の競合となる製品をリリースしたりすることさえあります。

6.中小企業ではどうする?

中小企業では、人材採用の前に「離職を防ぐ」対応が重要といえるでしょう。

つまり、有給休暇の取得や賃金体系など人事制度を改善し、福利厚生を充実させ、パワハラ、モラハラ、セクハラなど上司による権力の乱用に目を配り、長時間労働を是正。「ブラック企業」のイメージを払拭することです。

正社員とパートタイムの社員の賃金格差を是正するだけでも、パート社員のモチベーション向上につながります。逆に正社員のモチベーションが下がる可能性がありますが、成果報酬などを取り入れる方法が考えられます。

しかし、人間は「報酬」だけでは動かないものです。報酬と同時に「自分の仕事に自信が持てること、社会に役立つ仕事であること」を納得できるような、モチベーション管理が大切になります。

モチベーション管理においては、社員のちいさな変化や努力を見逃さずに、「あの会議で、きみはうまくまとめてくれたね。ありがとう」「きみはいつも遅刻せずに早めに出勤して掃除してくれているよね。素晴らしいと思っているよ」のような感謝の言葉や、常に部下を見守る配慮のできる上司を育成することが効果的です。

あまりにも露骨な場合は逆効果になりますが、中小企業は「ヒト」で成り立っています。ヒトを大切にしない限り、人材不足を嘆いてもバケツの穴は塞げません。

7.まとめ:人材の穴埋めではなく、生産性の向上が重要

企業は、特定の誰かがいなければ成立しないとしたら存続しないものです。

とはいえ歯車のように人材を使い捨てるような企業は、SNSなどであっという間にブラック企業の実態が流布してしまう時代になりました。

「少子高齢化で人材不足だ」「社内風土が澱んでモチベーションが上がらない」と愚痴を言ったり、採用活動に過剰な予算を投与したりする前に、「いま働いている社員を大切にして、離職しない魅力的な企業にすること」が大切ではないでしょうか。そして、社員数は少なくても、外部にアウトソーシングやクラウドソーシングできること、ITによる自動化を追究することで、生産性を上げることが急務では。

離職率が高く、人材の「穴埋め」に追われている企業は、いつまでたっても穴埋めの無限ループから脱することはできません。むしろ大切なことは、禅語でいえば「知足」。いま在籍している人材でなんとか現状を回すことを考え、人材不足の妄想に追い回されるのではなく「既に優秀な人材は足りている、あとは生産性を上げることだ」と戦略の軸を変えることです。

なぜなら、いま前線で頑張っている人材を採用したのは、人事部のあなたなのですから。

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