応募者が集まる採用サイトの作り方

1.採用の現状を把握する

少子高齢化による人材不足の時代、2019年における新卒採用の有効倍率は1.88倍で、7年連続の上昇傾向にあったとリクルートワークス研究所はレポートしています。つまり学生の売り手市場であり、企業側としては厳しい新卒採用難でした。ところが、売り手市場から一転して買い手市場に転じる傾向がみられるようになりました。

共同通信による主要112社を対象とした、2020年度(20年4月~21年3月)入社の新卒採用アンケートによると、採用数を増やすと答えた企業は21%で、2019年度の29%から低下。しかも、減らす企業も増えています。

企業が新卒採用を控えつつある理由としては、トランプ政権による中国との貿易摩擦、中国経済の景気失速、イギリスのEU離脱など世界経済の激変に加えて、アベノミクスの破綻、消費税増税など国内の状況も加わり、日本経済の先行きに関する不安が影響しているようです。

新卒採用による人件費を抑制する一方、外国人労働者を積極的に採用する動きもあります。東京商工リサーチ情報本部長の友田信男氏は、日刊ゲンダイの取材に対して、学生の二極化が始まり、本当に優秀な学生だけがグローバル企業に入社できるようになるだろうと予測しました(「日刊ゲンダイDIGITAL」2019年4月23日)。

この買い手市場への転換で、グローバル化を進展する大手企業が採用数を絞り込むことは、大手企業のライバル企業あるいは中小企業としてはチャンスと考えることもできます。なぜなら、大手企業の狭き門をくぐることができなかった優秀な人材を獲得できる可能性があるからです。

どこか「おこぼれ」の印象は否めませんが、この機会に戦略的に攻めの人材採用を行うことが人材難を打開するきっかけとなるかもしれません。

ところで、採用ツールとして採用サイトは重要です。

もちろん入社案内なども大切ですが、紙媒体よりもインターネットで企業の情報を入手することが一般化しました。さらに、これまでPCサイト中心だった採用サイトは、スマートフォンで電車などの移動中に見ることも多くなっています。

このような動向も押さえながら、応募者が集まる採用サイトを解説します。

2.「採用力」を高める採用戦略

「チャレンジ精神があって、ガンガン自分から行動を起こせる学生を採用したいと考えています。特に理系。じゃあ、新卒採用サイトの提案よろしく。期限は来週ね。では!」

新卒採用サイトをリニューアルするにあたって、複数の制作会社に声をかけ、一枚のオリエンテーションシートもなく、ホワイトボードに「ガンガン」と書いて、新卒採用サイトの制作会社を決めるコンペのためにオリエンテーションを行う……さすがにそんな人事担当者はいないと思いますが、採用サイトは採用戦略に位置づけられ、その上位には経営戦略があります。したがって、採用戦略の立案を先に行うべきであり、その戦略に即したサイトを制作することが重要です。

■採用戦略の整理が「採用力」の強化になる

採用戦略といっても難しく考える必要はありません。以下について文章化し、人事部門全体で共有することです。

  • 本年度新卒・中途採用のテーマ、コンセプト。
  • 採用人数、およびその人数を獲得するための応募者数(母集団)。
  • 採用したい人材像(マーケティングのペルソナ的手法もあり)。
  • 選考基準、エントリーシートや面接における着目点。
  • 学生に強調したい自社のアピールポイント。
  • 例年の内定辞退者から、採用戦線で競合となる企業の想定。
  • オンライン採用ツールは何を使うか(採用サイト、リクナビやマイナビなど就職サイト)。
  • 入社案内、説明会用の映像、来社した学生たちへのプレミアムグッズなど。
  • 合同説明会、イベントへの参加。
  • 採用フロー(書類選考、一次面接、二次面接、役員面接、内定、内定後など)。
  • 採用スケジュール。
  • 採用におけるコンプライアンスの徹底(個人情報、セクハラなど)。
  • 人事部の組織体制と役割分担。
  • 採用における予算配分。

ベテランの人事担当者にとっては「そんなことは分かっているよ」という項目かもしれません。ところが大企業はともかく、中小企業では全体の採用計画を立てずに、なりゆきで採用を行っている場合も少なくありません。

採用戦略と戦術の全体をきちんと文書にして共有することによって、「採用力」が強化されます。つまり人事部全体で、どういう人材を、どのように採用していくかという方針が、はっきり定まるからです。

■マーケティング思考で求める人材を明確化する

採用戦略の中で特に重要なことは「自社にマッチする人材はどのような人材か?」ということです。

応募者数の母数を獲得するためにハードルを低くすると応募者は集まりますが、求めていない人材まで集めてしまうことになります。「技術力が必要」「チャレンジ精神も必要」「コミュニケーション力はあったほうがいい」と条件を増やしていくと、逆に必要とする人材像がぼやけていきます。

中途採用では即戦力が求められますが、新卒採用ではポテンシャル(潜在能力、可能性)が重要です。したがって、現在は能力やスキルがなかったとしても、入社後に教育によって人材を強化することもできます。また、あまりにもハイポテンシャルな人材を求めると、結局、給与や待遇に見合わない人材を高望みすることになり、応募者は減少するでしょう。結果として、母集団が確保できません。

そこで、求める人材像はできるだけ鮮明に描くことが大切です。

このときマーケティング思考が役立ちます。

マーケティングではターゲットといって、潜在顧客にどんな広告やセールスプロモーションを行うかを明確に定めます。その手法の中には「ペルソナ(もとは仮面の意味)」といって、趣向や家族構成、経歴、趣味など、アピールするターゲットを細かく設定する手法があります。

このペルソナの手法を使って「地方から東京の中堅理系大学に入学した学生。アウトドア志向で、海外留学経験あり。おとなしいけれども芯が強い性格。一度やり始めたことは最後まで遂行する。実は理系にも関わらず多読家で、小説だけでなくドラッカーなどにも目を通す。プログラム経験は少ないが、興味と意欲はある」のように、ほしい人材像を討論しながら明確化していきます。

そして、このターゲットに「刺さる」言葉や、ビジョン、待遇などを整備することにより、採用力は格段に上がるはずです。

あまりにもターゲットの条件を狭めすぎても母集団を確保できません。結果として広告を何度も出稿するなど、コストがかさみます。とはいっても、懸賞キャンペーンではないので「みんな応募してね!」とターゲットの条件を拡げ過ぎると、人材のミスマッチがおきるだけでなく、選考が非常に煩雑になり人事担当者の負荷が重くなります。

たとえば1,000人応募があったとしても自社にマッチする人材が3人しかいなかった場合と、応募者は100人にも関わらず、その中の20人は有力な候補者だった場合では、後者の方に採用力があり、人材戦略は成功しているといえます。前者の場合、何度も広告を打ち直す必要があるため、結果として、求めざる人材を採用するしかない状況になってしまう可能性があります。

マーケティングと人材採用は似たところがあります。

特に中小企業では、全方位型の採用活動が難しいため、エリアや職種に特化して、いわゆる集中投下型のランチェスター戦略的な攻め方が効率的です。

そのためには適切な人材像の設定と、最適化された広告出稿がポイントになります。

3.読まれる採用サイトは「わかりやすさ」が重要

採用戦略を人事部全体で共有し、求める人材像が決まったら、次は具体的に採用サイトを制作します。このときにも採用戦略と同様に、サイト制作の戦略を立案したほうがベストです。

かつて採用バブルの時代には、Javaスクリプトを駆使してゲームのようなコンテンツを作ったり、オープニング動画があったり、奇抜なデザインの採用サイトが数多くありました。しかし、現在ではそのようなサイトはあまり応募者に好まれません。

では、応募者が採用サイトで重視することは何かといえば「わかりやすさ」です。

わかりやすいサイトのポイントとしては以下のような項目があります。

  • 文字が少ない。
  • ギョーカイ用語やテクニカルタームが少ない。あったとしても解説されている。
  • 必要な情報があり、しかも必要な情報にたどり着きやすい。
  • オフィスの風景や社員の写真がある。
  • 数値や図解で説明されている。
  • 社長の言葉が響く。

上記を踏まえながら、さらに解説を加えていきましょう。

■現在の主流はスマートフォンによる閲覧

まず、最近では採用サイトを読むデバイス(端末)が、パソコンよりもスマートフォンが主流になっています。

中途採用であれば現在務めている会社のパソコンから、こっそり応募するような人もいるかもしれません。しかし、ログ(記録)が会社のサーバーに残るだけでなく、就業時間をプライベートな転職活動に利用することはやめたほうがよいでしょう。場合によっては就業規則に違反することになり、罰則があるかもしれません。

学生の場合、エントリーシートなどの作成には、キャリアセンターのパソコンや自分のパソコンを利用していますが、情報収集やコミュニケーションにはスマートフォンを使います。

したがって、パソコンによる見え方だけでなく、スマートフォンでどのように自社の採用サイトが見えるか、採用サイトを設計するときに想定しておくべきです。

スマートフォンの画面はパソコンに比べると狭いことに加え、学生や若い世代はLINEやTwitterなどのSNSに慣れているため、テキストの分量が多いと読まれません。したがって、文字ばかり多いサイトはそれだけで読まれないことになります。

■意外に読まれている社長の言葉

ある企業の採用サイト制作のために若手精鋭社員にインタビューをしたときのことです。5人ほどの社員に話を聞いたところ、すべてのデキる社員が「採用サイトの社長の言葉に惹かれて、実際に社長と話をして共感して入社を決めた」と語ってくれました。

優秀な学生や、スキルアップをめざして転職を考えているビジネスマンは、経営にも強い関心があります。起業家精神も旺盛です。レベルの高い会社で自己研鑽をした後、独立して会社を経営したいと構想していることも少なくありません。このような応募者は、経営者の言葉に注目します。

社長の言葉というと、どちらかというと経済の現状、業界の動向、そして自社の強みと求める人材像といった、どの企業も同じ内容です。あいまいで抽象的な言葉で語られています。しかし、優秀な学生は社長の言葉を重視しているかもしれないということを意識しておくとよいでしょう。

物語が感じられる社長の言葉も効果的です。

学生時代に勉強ができなくて成績は最低で、就職活動もいい加減だったのでブラック企業にしか入れなかったけれど、こんなに劣悪な環境に我慢できるか!オレが日本を変えてやる、と一念発起して会社を起こしたなど、少しばかり演出を加えても、人間味が溢れる文章に親近感を持つ学生や社会人もいるはず。

ただし「捏造」はいけません。

あくまでも基本は実際の人生経験があり、それをデフォルメした物語であることが大切です。というのは、学生以外の取引先や知人も読んでいる場合があり「嘘ばっかり言ってるな、あの社長は」と逆にイメージダウンになる可能性もあるからです。

■イメージ写真が信頼を損なう場合もある

大企業ではオフィスは整備されていますが、中小企業の場合、商用利用可能な写真素材などを使って、いかにも外資系のカッコいい雰囲気のサイトにしたり、きれいな女性やイケメンの写真を使ったりすることがあります。

ところが、実際に面接に行ってみたところ、オンボロのビルでそんな社員はいなかったということになると、ブランディングとしてどんなに素敵な採用サイトを作っても、逆に信頼を損なうことがあります。SNSで一気に笑い話として拡散する可能性もあります。

むしろ、雑多なオフィスの中で社員が肩を組みながら笑って「ウチはこんなベンチャーだけど、一緒に大きくしないか?」と、等身大のイメージを見せたほうが誠実です。

Instagramなどの写真系SNSでは、美白にしたり顔を加工したりすることを「盛る」という言葉で表現していました。企業のイメージは、盛り過ぎないように注意が必要です。イメージで集客したとしても、入社後はまったく違っていた、ということになると、離職率を高めるだけです。写真に限らず、福利厚生や待遇などについてもいえます。

■セキュリティ対策にも留意

Facebookの登録者情報が漏えいしたことは、大きな社会問題になりました。

個人情報の管理は徹底し、エントリーに関しては信頼性の高い就職サービスなどの方と連携させたほうが安全です。また、WebサイトのURLは暗号化される「https」を用いるべきです。通常の「http」では暗号化されていないため、セキュリティにおける安全性が低下します。

応募者情報の管理も注意が必要です。大企業であれば、選考段階のステイタス(状態)を管理できる、専用のATS(Applicant Tracking System:採用管理システム)導入について検討するとよいでしょう。クラウド型のシステムであれば、月額料金で安価に利用できます。情報を一元管理できるため、どの応募者がいまどのような状態にあるか、人事部門で共有することが可能です。

中小企業の場合は、いまだに紙の書類とExcelで管理していることも多いかもしれません。しかし、担当者によって属人化する可能性が高く、人事担当者が引き継ぎ不十分なまま退職して困ることが多々あります。日本はExcel文化が根強く残っていますが、AIが進歩しつつある現在、人事管理も次のステップに踏み出すことが必要です。

4.就職サイトのほか、イベントなどの連動も考慮する

ところで、採用のためのツールは、採用サイトだけで独立しているわけではありません。集客のためには自社サイトだけでは困難なことが多く、リクナビやマイナビなどの就職サイトも併用したほうが効果的です。就職サイトから自社の採用ページに誘導し、採用ページから就職サイトへ誘導してエントリーを促すことが一般的な方法です。

また、合同説明会や企業主催の入社説明会なども採用サイトと連動して、その情報を定期的に発信すると、関心を持っている学生や転職希望者には有益な情報になります。

デジタルの時代とはいえ、入社案内など紙の印刷物も意義があります。紙媒体ならではの一覧性や保存性があるからです。ただ気をつけなければならないのは、採用サイトはA社、印刷物はB社のように分けてしまうと、採用サイトと印刷物でアピールしていることが違っていたり、色調も含めて雰囲気がまったく違っていたり、統一感がなくなります。こうなると企業ブランドとして破綻します。

したがって、インターネットにも印刷物にも対応できる制作会社に依頼するか、人事担当者がプロデューサーやディレクターとして、企業のメッセージやトーンを統一する必要があります。

どうでもよいことのように思われがちですが、実は採用ブランディングとして大切なことです。

5.まとめ:本当に大切なことは集客ではなくマッチング

人事部の採用担当者としては、採用サイトを立ち上げたときアクセス数が気になることは当然であり、エントリーしてもらえるか不安でしょう。

もちろん一定の応募がなければ、優秀な人材を発掘することもできません。

しかし、採用サイトで重要なことは、B to Cの商品サイトやアフィリエイトサイトのように集客ではなく、自社の求める人材とマッチングした応募者をどれだけ集められるか、ということです。

場合によっては、採用サイトには最低限の情報だけ掲載して、大学のキャリアセンターに出向いて人脈を使って、アナログな手法で人材を発掘するほうが優秀な人材を確保できることもあります。

集客ばかりを気にして「採用の目的は何か?」を見失わないことが大切です。

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