「産休後も活躍できる職場の作り方」

少子高齢化の波が容赦なく押し寄せる現代。最も生産性の上がる年代の労働人口は今後ますます減っていくことが予想されています。すでに深刻な人手不足に陥っている業界も多く,あらゆる企業が人材の確保に頭を悩ませています。

 そんな中、子どもができたことを契機に退職してしまう人が出るということは,企業にとっても大きな損失となります。産休、育休期間を経て再び同じ職場に復帰してもらい、その後も継続して活躍してもらえる職場づくりがすべての企業で急務とされています。

 しかし、産休後も活躍できる職場づくりとはどのように取り組んでいけばよいのでしょうか,具体的に考えてみましょう。

 

1.出産育児を理由とする離職を食い止めるために・社内の制度を整備しよう。

 女性従業員が,出産を機に退職することなく子育てと仕事を両立するには,まず社内の制度がきちんと整っているかどうかが重要です。誰でも規則に従って育休がとれるようになっていてこそ,安心して働けるというもの。一応就業規則は整備出来てはいるものの,その内容が古いものであったり,従業員に認識されていなかったりしていないでしょうか。かいつまんで点検してみましょう。

(1)妊娠・出産のとき

労働基準法で定められていることは最低限出来ているとしても,次にあげる内容ができているかチェックしてみましょう。

  ① 妊娠中・出産後の女性が保健指導・健康診査を受けるために必要な時間を確保できるようにしている。また,医師等から指導事項があった場合に勤務時間の変更や勤務の軽減等の措置を講じているか。

  ② 妊娠・出産を理由に,あるいは産前・産後休業の申し出を理由に解雇したり雇止めをしたりしていないか。

  ③ 有期雇用の女性従業員が育児休業を申し出た場合に,その期間中雇用期間が満了した場合の取り扱いについて,従業員との間にコンセンサスがとれているか。

(2)育児中のとき

育児休業をとれるようにするのは当然できているとして,以下の事は大丈夫でしょうか。

  ① 3歳に満たない子どもを養育する従業員が希望すれば取得できる短時間勤務制度が整備されているか。また申し出があった場合に残業をさせないようにしているか。

  ② 未就学児を養育する従業員から申し出があった場合に,1日又は半日単位の看護休暇をあたえる,1か月24時間,1年間で150時間を超える時間外労働をさせない,深夜業に従事させないなどの措置が明文化されており,実行されているか。

  ③ 育休や,短時間勤務を申請したことを理由に解雇や雇止めといった不利益になる扱いをしていないか。

  ④ いわゆる,妊娠した女性や育児中の従業員に様々な方法で圧力をかけ辞職に追い込むような,いわゆる「マタニティハラスメント」を防止する規定があるか。

(3)制度を社員によく知ってもらう

制度を整備したら今度はみんなに知ってもらわねばなりません。周知先には3つの種類があります。それぞれ周知の目的が少しずつ違いますので,「どんなことを理解していただくか」というポイントも少しずつ違ってきます。

  • 全体

育児をしている従業員以外にも制度をよく理解してもらうことによって,育休取得に対する理解や協力を得やすくする目的があります。制度を導入した意義や背景について解説を交えながら,育児と仕事の両立はだれでも直面する問題であり,他人ごとではないのだということを理解していただきましょう。

  • 経営層・管理職

経営層に対しては,国の法律を順守して社会的責任を果たすという企業としての使命において,従業員の育児と仕事の両立を支援するための制度がいかに重要かということについて理解していただきます。管理職については,従業員の円滑な育児休業取得,復帰するための職場マネジメントが日ごろから準備され,それが重要な責務であることを意識付けましょう。

  • 制度の対象者

処遇面についてきちんと説明をして,不明なことや不安なことがあればいつでも相談できるように窓口を準備しましょう。たいていの場合人事の担当者がなることが多いのですが,着任したばかりでまだよくわからないという場合などもあるため,顧問の社会保険労務士などがいらっしゃれば応援をお願いできるので,なおよいでしょう。

 (4)法律的なことも知っておこう

ここで育児休業からの復帰に関連する法律にはどのようなものがあるのか,整理してみましょう。育児休業に関する法律を知っておくことは,無用なトラブルを防止する上でとても重要なことです。知識として持っておくことによって様々なケースが発生した時にどのような対応を取るべきなのかがある程度わかるようになります。ここですべてを紹介することはできませんが,法律名と簡単な内容を列記します。中身については条文をご一読していただくことをお勧めします。

◆雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律

昭和47年7月1日に成立した,男女の雇用の均等を目標とする法律。通称「男女雇用機会均等法」と呼ばれている法律です。

第一条に「法の下の平等を保障する日本国憲法の理念にのっとり雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保を図るとともに、女性労働者の就業に関して妊娠中及び出産後の健康の確保を図る等の措置を推進することを目的とする。」とし,さらに第二条で「女性労働者にあっては母性を尊重されつつ、充実した職業生活を営むことができるようにすること」とあります。

そのあとに性別を理由とする雇用差別の禁止を中心とした条文が並び,「妊娠,出産を理由とする不利益取り扱いの禁止」「母性の保護」など事業主が講ずべき措置が規定されています。

ちなみに「婦人警官」を「女性警察官」に,「営業マン」を「営業職」に,「看護婦」を「看護師」に,「スチュワーデス」を「客室乗務員」と呼ぶようになったのもこの法律によるものです。

◆育児休業,介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律

平成3年7月6日公布の法律。公布以来,つぎつぎと改正や付則が加えられている法律です。最終更新は平成30年7月6日公布で,育児休業ののちに復職する際に参照するべき,中心となる法律です。

第三条に「この法律の規定による子の養育又は家族の介護を行う労働者等の福祉の増進は、これらの者がそれぞれ職業生活の全期間を通じてその能力を有効に発揮して充実した職業生活を営むとともに、育児又は介護について家族の一員としての役割を円滑に果たすことができるようにすることをその本旨とする。」とあり,全条文を通じて育児・介護で休業する際の決まりについて細かく定められています。

◆次世代育成支援対策推進法

 平成15年7月16日に成立した法律です。少子化社会を迎えるにあたって,「次代の社会を担う子どもが健やかに生まれ、かつ、育成される社会の形成に資すること」について国や地方公共団体,一般事業主がとるべき行動指針を定めた内容になっています。

 この法律によって,一定規模以上の一般企業には,今後,従業員が子育て等をしやすくするためにどのような施策をとっていくのかについての計画を策定して,厚生労働大臣に届け出る「一般事業者行動計画」の策定と提出が義務付けられました。

 一般事業主行動計画を提出した企業の中で,より高い水準の取り組みを行った企業は,「くるみんマーク」の認定を受けることができる報奨制度のようなものも設けられています。

2.「安心して産休・育休を取得でき、復帰もできる!」という社内の雰囲気をつくろう

妊娠した時から,本人は復職した時までのことが頭に浮かび,「どのような制度があってどういう風に利用したらよいのか,またどのような支援が受けられるのか」についてわからないことだらけで大変不安になるものです。職場の雰囲気や会社の制度的な面から、妊娠すること自体をためらうことになることは不幸なことです。早く安心して子供を産んで元気に育てたいと思うのは自然なことです。

妊娠した際にきちんとした対応が企業の側でとられていないと,当人は就業の意思があったとしても「退職」を選択せざるを得なくなるでしょう。子育ては一生の一大事。大変なことです。「安心して産休・育休を取得できて,元の職場に復帰もできるんだ!」ということを理解して安心できるまで,その人に合った計画を一緒になって立てて,それを示したうえで,わかっていただくことが必要かつ重要になってきます。顔を合わせて十分に話し合うことはもちろんですが,具体的にはどのようにしていけばよいのか見ていきましょう。

(1)管理職と、産休・育休希望者の面談,職場環境の整備,周囲の人のバックアップ

妊娠した人から申し出があったら,最初の面談の機会を設けましょう。

まずは基本的なことから確認をしていきます。

 ・出産予定日

 ・産前休業をいつからとるか

 ・育休を取る予定はあるか

 ・体調面で配慮してほしいことはないか

 ・業務の引き継ぎスケジュールについて

育休を取る予定の場合は,2か月ほど前に次のことを確認しておきましょう。

 ・休業中の連絡先について

 ・現在考えている復帰後の就業イメージ(休業前と同じ働き方をしたい・時短でお願いしたいなど)

 ・その他休業に向けての相談連絡事項

 職種による違いもあるでしょうが,妊娠中の体調への配慮については,周囲の人のちょっとした気遣いが,こうした面談にもましてなによりも助けになるものです。重いものを持たせない,気分がすぐれない時は横になれるところを用意するなどの配慮も必要になるでしょう。就業時間中の通院も必要になってきます。何よりも周囲の人の理解が重要です。

 気兼ねなく育休がとれる環境とは,結局,お互いの思いやりと「人間関係」という言葉に帰結するのかもしれません。

(2)業務引継書をつくる。

 育休を取る人が担当していた仕事をどのように引き継ぐのかについては,育休を取る本人と,その仕事を引き継ぐ人たちが話し合って決めていきますがいくつかの方法があります。引継書は,やる人がいなくなって責任があいまいになってしまわないようにしっかり確認を取る為のものなので,業務名と簡単な内容が書いてあるものに引継が完了した日を記入する方法でよいと思います。

ただ,引継する時間がないほどの忙しさであったり,その人しかできない特殊な内容であったりして「引き継ぐ相手がいない」という事態が起こるのはよくあること。そういう場合は異動,採用,教育(その仕事を覚えてもらう)などの措置も必要になりますから,業務の引き継ぎについては休業3カ月くらい前から徐々に進めていった方がよいでしょう。

一人でやっていたからと言って特定のだれか一人にまるごと引き継ぐということでなくても構いません。その人のやっていた仕事を見直して,別なやり方で複数の人に少しずつ分担させるなどの方法もあります。ここはマネジメント力の見せ所ですね。

(3)人事・総務でも管理しやすく。

 これから出産,育休となる社員については様々な届け出や手続きが必要になります。最初の申し出から始まり,出産から育休の開始まで期間が空きますから,忘れてしまうことのないように,折々の時に行うことをチェックする管理表を作りましょう。各項目に手続きを行った人の氏名を書いていく形式になります。

・妊娠の報告

・面談(妊娠報告後)

・産前休業の申し出

・産前休業関連の資料の提出

・面談(育休2か月前)

・育児休業の申し出

・育児休業関連資料の提出

・育児休業開始日

・面談(復職1~2か月前)

・育児休業終了日

・復職後の制度利用の申し出

・復職後の制度利用関連資料の提出

・面談(復職2ヶ月後)

3.一人一人に合った「支援プラン」を策定しよう。

育休を取得する人には周りの支援が必要なことは,これまでにも述べてきました。妊娠・出産,そして育休というプロセスをたどる人は,一定期間,仕事から離れざるを得なくなるわけで,本人はもちろん,本人のいた職場にも少なからず影響が出ます。業務引継を含む育児休業のプランが順調に進むためにも,本人が休んでいる間,職場のモチベーションを上げ,職場のメンバーの能力を引き出していかなくてはなりません。育休を取得しやすい職場づくり,雰囲気の醸成のためには多彩な人材が活躍できるようにすることが大事です。

(1)育休前・育休中・復帰後・働き方の見直し

◆育休前

育休前に業務の引き継ぎということを考えた時,必要になってくるのが,「業務の棚卸」です。どんな業務がどれくらいの量であるのか一覧にしてみましょう。そしてそれらを,必要性や重要性で分類してみましょう。中には必要のないものもあるかもしれませんし,外注すればよいものもあるかもしれません。また一人でやっていた業務だからと言ってある特定の一人がそれを引き継がねばならないということもありません。プロセスを細かく分解して多くの人に割り当てるという方法もあります。場合によっては代替要員の確保も必要でしょう。

いずれにしても,育休を支えるチームメンバーに過度な負担がかからないように日ごろから,多くの人がいろんな業務を出来るようにしておく必要があります。

◆育休中

また,育休に入ってから,育休を取っている本人と1年間の間,ぱったりとコミュニケーションを絶つというのもよくありません。人事異動の情報や社内報などがあればそれを送る,あるいは定期的に上司が訪問して会社の様子を伝えるなどすることが必要でしょう。また,育休中は育児で手一杯かもしれませんが,少し慣れてきたなら,パソコンの貸与や,eラーニングなどで資格取得を勧めてみるなどのスキルアップ支援をすることもよいと思います。SNSなどを上手に活用するのもよいかもしれません。

◆復帰後

 育休から復帰した時はどのように対処すればよいのでしょう。久しぶりの職場復帰に不安を感じたり,仕事と育児の両立を図ることが難しかったりと,休業前の状態に100%戻ることは困難なものです。特に休業前と仕事内容が異なる場合などにはさらに注意が必要です。

 多くの人は,保育園のお迎え等がありますので短時間勤務を利用することとなるでしょう。しかし短時間勤務だからと言って本人の役割やスキルに合わないような簡単な仕事を割り当ててしまうのはモチベーション低下につながります。仕事と育児の両立に配慮した仕事内容の考慮が必要となります。

 いずれにしても,復帰後に家庭と仕事の両立で業務に支障が生じていないかどうかなど,上司が面談等を通じてフォローすることが必要です。

(2)いろんな人にいろんな支援の方法を

以上,育休復帰支援プランを策定するうえで必要と思われることを書いてきましたが100人いれば100通りの支援方法があるのが現実です。また,職場もいろんな状況があります。代替要員の確保が難しい,シフト勤務のための要員計画が困難,人手が不足していて残業が多い,体力を使う職場である,作業手順の変更が多い,などなど。いずれの場合もそれを育休の取得をさせることができない理由にしないで,どうにか工夫することが必要です。働きながら子育てができる会社であることを普通にしていくことが,まずは大事なことだということを認識しましょう。

4.日本の未来は育休・介護離職率の低減にかかっている?

現在,日本の人口は減少傾向にあります。出生率は下がる一方で,労働人口に含まれない65歳以上の高齢者の人口は変わらないため、高齢者の人口全体に占める割合は増加傾向です。

出生率は毎年のように過去最低を更新しており,働き手が足りなくなるということは「確実に訪れる未来」です。

これだけやっても,仕事と家庭の両立というのはなかなか困難なものではありますが,職場の皆さんの知恵と協力で,誰もが安心して働き,子育てができる会社を作れば,社会全体が良くなっていき,やがて出生率も上がってきて日本の将来も明るくなっていくのではないでしょうか。

みなさん,一緒に明るい未来を目指して,「育休をとっても復帰しやすい職場」を作っていきましょう。

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