障害者雇用の進め方と具体例

「障害者雇用促進法」は、すべての事業主に法定雇用率以上の割合で障害者を雇用するように義務づけています。また企業の社会的責任(CSR)としても、「障害者雇用促進法」に沿った障害者雇用を行う必要があります。では障害者雇用はどのように進めたらよいのでしょうか。

1.障害者雇用についての理解

公的機関や民間企業は「障害者雇用促進法(障害者の雇用の促進等に関する法律)」という法律によって、一定割合以上の障害者を雇うように義務づけられています。

障害者雇用と法律 

「障害者雇用促進法」は、障害者の雇用の促進と障害者と障害者でない者との均等な機会及び待遇の確保、職業リハビリテーションなどを通じて職業生活において自立を促進すること、障害者の職業の安定を目的としています。(第1条)

障害者の範囲 

障害者の障害には、いろいろな種類があります。それぞれの障害は法律で定義されていて、「障害者雇用促進法」では、障害者を身体障害者、知的障害者、精神障害者(発達障害を含む)に区分しています。

身体障害

「身体障害者福祉法」で定義されてる身体障害者は、視覚障害、聴覚障害、音声・言語機能障害、そしゃく機能障害、肢体不自由、内部障害など身体上の障害がある18歳以上の者であって、都道府県知事から身体障害者手帳の交付を受けた人となっています。

知的障害

知的障害は、児童相談所や知的障害者更生相談所、精神保健福祉センター、精神保健指定医又は障害者職業センターによって知的障害があると判定された人で、「知的機能の障害が発達期(おおむね18歳まで)にあらわれ、日常生活に支障が生じているため、何らかの特別の援助を必要とする状態にあるもの」と定義されています。

精神障害

精神障害は、「精神保健福祉法」で) 精神障害者保健福祉手帳の交付を受けている者、 統合失調症、そううつ病又はてんかんにかかっている者で、症状が安定し、就労が可能な状態にある者とされています。

発達障害 

発達障害は、自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害、その他これに類する脳機能の障害であって、その症状が通常低年齢において発現するものとして政令で定めるものをいう。

発達障害者とは発達障害がある者であり、日常生活または社会生活に制限を受けるものと「発達障害者支援法」に書かれています。

2.障害者雇用の必要性 

「障害者雇用促進法」など障害のある人の尊厳と権利を保護する法律が整備がされるなか、企業にとって障害者雇用は社会的責務としてますます重要なものとなっています。一方、障害のある人自身の就労意欲も年々高まっており、障害があっても働く意欲と能力がある人が働くことのできる社会を作り上げることが必要になっています。

障害雇用の必要性

「障害者雇用促進法」は、企業に対して雇用する労働者に占める身体障害者と知的障害者の割合が法定雇用率以上になるように義務づけています。また企業全体の従業員が56人以上の企業は、毎年障害者雇用状況をハローワークに報告しなければなりません。従業員101名以上で法定雇用率未達成の企業は、障害者雇用納付金を支払う必要があります。

障害者雇用についての理解と関心が高まるなかで、企業は社会的責任(CSR)として障害者雇用に積極的に取り組むことは求められ、そのことが企業のイメージアップにつながります。一方、法令違反した企業はイメージを大きく損なうことになります。

障害者雇用が企業にもたらすメリット 

障害者を雇用することは、企業にとって負担だけでなく大きなメリットもあります。障害によってできないことばかりに目を向けるのではなく、できることにも注目してみましょう。その能力を最大限に発揮できる環境を準備することで重要な戦力となる可能性があります。

障害者が働きやすい環境を整える際には、現在の業務の流れや内容をチェックする必要があり、そのことにより業務の効率化やコスト削減、内省化、働き方などを見直すきっかけにもなります。

障害者雇用を行わなかった場合のデメリット 

「障害者雇用促進法」で定められる雇用義務を履行しない企業にはハローワークからの行政指導が行われます。そして、法定雇用率に達していない企業のうち、常用雇用労働者が101人以上の企業は、不足している障害者数に応じて障害者雇用納付金を納付しなければなりません。

ハローワークからの行政指導の後も、障害者の雇用状況に関して、改善が見られないと判断されると「企業名、本社所在地、代表者フルネーム、業種」が公表されます。近年企業の社会的責任(CSR)が企業経営において重要視されるようになっているので、社名の公表は、企業のイメージを大きく落とすことになります。

3.障害者雇用の進め方 

障害者を雇用したことがない場合、障害者のイメージがもてずに抵抗感や不安感を抱きやすいものです。障害者雇用を進めるにあたっては、具体的なイメージを全社で共有し、障害者に対する関心や理解を持つことが重要です。

ハローワークなど関連機関への事前の相談 

障害者の受け入れる際には、障害の特性や配慮すべき事項について社内で共有できるような体制づくりが必要です。特に初めて障害者を雇用する場合には、上司や他の従業員はどのように接してよいかわからず、戸惑いを覚えることも少なくありません。

障害者に対するサポート体制づくりは、業界や業種、従業員数など各企業によってさまざまです。まずはハローワークへ相談し、企業の現状を説明した上で、どのような順序で取り組むべきか、連絡を取り合い、しっかり相談することが大切です。

受け入れ準備

初めて障害者を雇用する際には、障害者雇用に対する理解を深めることが重要です。まずは企業として障害者雇用の方針や採用計画を具体的に立てましょう。その内容を経営層をはじめ全社で共有して、障害者雇用に対する共通認識を持って受け入れ準備を進めていくことが大切です。

次に障害者雇用を実際に進めていくにあって、配属可能部署や業務の候補を選びます。選ぶ際には、既存の業務の中で障害があってもできる仕事があるのかだけでなく、障害者が従事できる業務を新たに作りだすということも視野に入れて検討します。

障害があってもさまざまな業務が可能です。障害の特性によっては不向きな職種もありますが、障害の種類や程度だけで職務を決めようとぜすに、障害者一人ひとりで異なる障害状況に加えて、本人の希望やスキルなども合わせて考慮して職務や部署を決めることが望まれます。

またインターンや実習受け入れなどにより、正式な採用前に、障害者本人の適性や職場環境の適正化などを事前に知ることも大切です。

労働条件の検討と決定

障害者雇用の方針や計画を立案したら、障害者を雇用した際の受け入れ態勢を整えます。具体的には、雇用形態や就業時間、賃金などの検討と決定、職場環境の見直し、教育訓練体制の整備などです。

雇用形態や就業時間、賃金など労働条件の決定については、障害のない人の一般雇用と同様に本人の希望を踏まえたうえで決定をします。時短勤務の社員や非正規社員であっても、所定の要件を満たせば、障害者雇用率の算定対象となりますので事前に確認しておきましょう。

募集と採用

障害者雇用の採用活動での人材募集は、障害のない人の一般採用と同様にインターネットの求人サイトや新聞の求人広告などいくつかの方法があります。

中でもおすすめなのはハローワークの活用です。就職を希望している障害者の多くはハローワークに求職登録しています。まずはハローワークに相談するとよいでしょう。また、ハローワークの紹介により雇用に至った場合には、「特定求職者雇用開発助成金」の支給対象になることもあります。

応募者が集まったら面接に進みます。基本的には、それぞれの企業で行っている一般的な方法で選考してよいですが、障害の特性や個々の障害状況も考慮しましょう。

面接時には、本人の了承を得て障害の状況などを確認します。応募者には、配属先や担当業務を決めるためや、働きやすいよう職場環境を整えるために必要であるなど、確認する理由をきちんと伝えます。

4.障害者が入社した後の手続きとフォロー

障害者が職場に定着するためには、社内のサポート体制や職場環境の改善など、さまざまなバックアップが必要です。また障害者を雇用する企業に対するさまざま助成措置があります。

助成金の確認と申請 

障害者を雇用する企業に対して、経済的負担の軽減などのために雇用した障害のある人の賃金や職場の施設改善などに対する助成措置が設けられいて、「特定求職者雇用開発助成金」や「障害者トライアル雇用奨励金」など各種助成金制度が活用できる場合があります。

障害のある雇用者のフォロー 

 障害者が職場に定着するには、障害のない一般社員と同じように、業務を習得するための訓練や教育、指導などに加えて、職場環境の改善や職場内に人間関係の形成なども重要となります。 障害者が職場で十分に能力を発揮できるように、職場への適応状況を常に把握して、必要に応じて職場環境や人間関係の改善を行うことが重要です。

職場への適応状況の把握や改善は、配属部署の管理者などが障害のある人の相談窓口となって対応していくのが理想です。しかし配属部署の管理者や特定の社員に負担がかかり過ぎていないかどうか、人事担当部署が気を配りサポートすることも必要です。

また障害者が職場に適応できるように、障害者職業カウンセラーが策定した支援計画に基づき、ジョブコーチが職場に出向いて直接支援を行う「職場適応援助者(ジョブコーチ)による支援」を利用することもできます。

5.障害者雇用の取り組み具体例

「独立行政法人高齢・障害者雇用支援機構」では、障害者雇用と職場の定着を進めるために、雇用管理や職場環境の整備など改善や工夫を行った好事例を募集して、その中から優秀な事例を表彰しています。そこで紹介されている「身体障害」「知的障害」「精神障害」「発達障害」それぞれの具体例をご紹介します。

「身体障害」 オムロン京都太陽株式会社 

具体例

オムロン京都太陽株式会社では、オムロン制御機器の製造工場として産業用機械で使われる製品を中心に製造しています。従業員168名のうち上肢障害者の雇用は35名で、上肢障害のある従業員は、製品の組み立て作業やパソコンによるデーター管理の業務に従事しています。

オムロン京都太陽株式会社では、上肢障害の従業員が作業を行いやすいような治具を開発して生産性の向上と、上肢障害者への配慮を行っています。

具体的には筋ジストロフィー症の進行のため握力が弱く作業要領書の差し替えが困難な上肢障害者に対しては、全ての作業要領書を電子化してパソコンの画面で確認できるようにしたり、袋詰め作業では指先動作に障害のある従業員に対し、袋開け治具を製作したことにより作業量が増えました。

ポイント

オムロン京都太陽株式会社では、上肢障害者の作業者が、障害があっても作業しやすいように治具を開発製作しています。治具の製作を担当する改善チームは4名の従業員から構成されていて、障害への配慮と同時に生産性の向上を図るために改善に取り組んでいます。その取り組みは社内ホームページで広く紹介されていて、障害者雇用に対する情報と理解を全社で共有しています。

大東コーポレートサービス株式会社

具体例

大東コーポレートサービス株式会社は、大東建託株式会社の特定子会社として設立されました。業務は、大東宅建㈱および関係会社から事務作業等の受託業務、機密文書の処理、郵便・宅配小荷物の受け渡し、名刺作成などを行っています。

従業員36名のうち障害者は26名で、知的障害者をはじめ視覚障害者、聴覚障害者、肢体不自由者、精神障害者です。

設立当初は、社長が先頭に立って広報営業活動を行い、本社各部門向けの説明会を開催して、本社全部門で依頼可能な業務の洗い出しを実施して一定量の仕事を確保しました。その後は、受注した仕事に一つひとつ確実に応えることで、スキルアップを重ねて業務を拡大しています。

ポイント

大東コーポレートサービス株式会社では、仕事の段取りや工夫を障害者職業生活相談員が考えています。そして障害者がスムーズに働ける環境を整えるとともに、仕事の問題発見や改善を重ねてミスのない仕事を実現しました。その成果として高度な業務を行えるようになり、知的障害者は単純作業しかできないという社内の先入観を打ち破っています。

リゾートトラスト株式会社東京本社事務支援センター 

具体例

リゾートトラスト株式会社東京本社事務支援センターは、ホテルレストラン事業やゴルフ事業、メディカル事業などを展開するリゾートトラスト株式会社東京本社人事総務部内に設置された部署です。

本社の定型的な事務作業の集約化や、外注業務の内製化などにより業務を創り出しています。精神障害者10名を含む49名の障害者がダイレクトメールの発送や名刺印刷など80種類以上の業務を分担して行っています。

設立当初は、知的障害者の雇用割合が高かったが、受注業務が拡大する中で障害種別を限定することなく、個々の能力や、特性、業務への対応能力などを重視して、その結果、精神障害者を雇用することに至っています。

ポイント

リゾートトラスト株式会社東京本社人事総務部に「リワークセンター」を設立し、嘱託の精神科医、臨床心理士のほかサポートスタッフを配置して社内の支援体制を整えています。また「リワークセンター」の精神科医、臨床心理士を講師とする社内研修を定期的に実施し、障害者で構成される業務グループのチームワークと生産性の向上を実現しています。

「発達障害」 富士ソフト企画株式会社

具体例

富士ソフト企画株式会社は、富士ソフト株式会社の子会社として設立。設立当初は、身体障害者中心の採用で、翌年より知的障害者の採用を進め、その際に発達障害者の実習も行い採用を開始しました。

従業員160名に対し、13名の発達障害者を雇用していて、WEBデザイン、データコーディネート、給与計算や請求書発行、帳票発送など親会社の庶務全般、イントラネット管理入力、PC社内研修、障害者委託訓練、名刺作成、データ入力などの業務を担当しています。

WEB製作チームでは、企業からの発注の増加に伴い高いスキル、納期厳守、コンペのための技術やデザイン力が求められるようになり、研修会や展示会に参加するなど外部からの刺激を受ける機会や環境を提供して、デザイン力を高めています。

ポイント

コミュニケーションが苦手な発達障害者には、発達障害者支援センターと事業者の支援により自身のコミュニケーション面の課題についての理解を深め、それをカバーする取り組みを行っています。

障害者への理解や受容に対しては、社長を含めた幹部従業員が外部研修を受講し、受講内容が各部署に浸透するように伝達研修も実施しています。

6.障害者雇用を成功させるポイント 

上記でご紹介した具体例から障害者雇用を成功させるポイントをまとめてみました。

障害者雇用に対する社内の意識改革  

障害者雇用を成功させるためには、経営者や職場の上司、障害者と一緒に働く社員が持つ「障害者のイメージ」を変えていくことが大切です。特に初めて障害者を雇用する際には、職場内だけでなく全社で障害者雇用に対する理解を深めることが重要です。

採用前のインターンシップや実習の受け入れなどでは、障害者の実際の仕事の様子や成果を知ることができ、履歴書や職務経歴書、面接といった通常の選考だけでは分からないようなスキルを感じられます。また他の社員が、障がいのある方と一緒に働くイメージを持つことにもつがります。

このようにさまざま方法によって社内の意識改革を、促進させるための工夫をしてみましょう。障害者に対する固定概念を変えていくことが障害者雇用を成功させるために重要です。

書類や面接だけでなく多面的な評価をもとにした採用   

障害者の採用においては、書類選考や面接といった従来の選考方法だけでは、その人の障害の状況や雇用するにあたっての必要な配慮を十分に理解することは難しいことがあります。

特に精神障害者の場合には、面接を行った日がたまたま調子がよかったという場合や、障害者自身が症状を正しく理解していない場合もあります。そのため入社後に、「思っていた人材とは違った」というミスマッチが起こることも考えられます。

面接のする障害者が就労移行支援事業所を利用していた場合、事業所の職員は利用者一人一人の障害者の体調や気持ちの波の状況、障害特性と必要な配慮、PCスキルなどの作業能力、コミュニケーション能力などの情報をよく理解しています。採用後のミスマッチを防ぐためにも就労移行支援事業所との連携も大切です。

障害者の成長促進とキャリアパス  

障害者雇用を成功させるためには、雇用した障害者の成長やキャリアパスに取り組むことも重要です。実際に「障がい者総合研究所」の調査(2016年3月「キャリアアップに関するアンケート調査」)では、障害者の8割がキャリアアップを望んでいるという結果が出ています。*エビデンス http://www.gp-sri.jp/report/detail018.html

障害のない一般の従業員と同様に、仕事に対するモチベーションを高めるためにはキャリアアップの可能性を示すことが大切です。障害者が目標設定を行ない、その目標に対して上司と定期的打ち合わせすることは、仕事に対する達成感を得ることや自身の成長を実感することにつながります。

まとめ 

障害者雇用を進めるには、障害者へ最大の配慮をしながらも、全社の生産性を低下させることなく企業の利益を実現するという2つの目標を持たなければなりません。

障害者が十分に職場で活躍できるような環境を整えるには、現状の業務や働き方を見直すことも必要です。障害者雇用はそれらに取り組むよいきっかけにもなります。

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