HRテックは実際の人事業務の中のどのような部分に活用できるのか

 

HRテックが注目され、導入する会社が増えているなか、実際にどのような業務にHRテックは活用できるのでしょうか。また、HRテックを活用してどのような施策を立てることができるのでしょうか。実際にHRテックを導入したことによって業務改善に成功した、企業のHRテック導入事例と合わせてHRテックの活用方法をご紹介します。

企業が急スピードでHRテックを導入する理由

これまで日本では、長い間、終身雇用を前提とした働き方が根付いていました。しかし、近年では時短勤務やリモートワークなど勤務環境の変化による対応、少子化による労働人口の減少の中での優秀な人材確保、離職率の改善など人事担当者に求められる業務も多岐に広がりました。さらに、業務量が増えただけでなく、戦略的な課題が多くなってきているのはいうまでもありません。そうした背景から、AIやビックデータなどのテクノロジーを活用して、業務効率化や自動化、分析や解析から施策を打ち出すなど、HRテックを活用する企業が増えてきています。

業務領域別HRテック市場

実際にHRテックを導入している企業は、どのような業務領域に取り入れているのでしょうか。ミック経済研究所は、企業が導入しているHRテックを「採用管理クラウド」「人事・配置クラウド」「労務管理クラウド」「育成・定着クラウド」の4分野に分け、市場調査を行いました。調査によると、2019年度「採用管理クラウド」132億円・「人事・配置クラウド」122億円・「労務管理クラウド」37億円・「育成・定着クラウド」64億円の市場となっています。

近年の労働人口の減少、働き方改革、働き方の多様性の影響から、採用、人材活用・育成のHRテックソリューションの需要が高いという結果がわかりました。

(参照URL:https://mic-r.co.jp/mr/01535/) 

HRテックが活用できる業務領域

HRテックの市場が伸びているなかで、実際にどのような業務部分に活用しているのでしょうか。オデッセイが実施した「HRTechに関する市場調査」では、企業の採用業務において、最もHRテックが導入されていることがわかりました。採用業務のほかどの部分の業務をHRテックが活用できるのでしょうか。

(参照URL:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000021.000026061.html

1.採用業務

新卒採用・中途採用だけでなく、アルバイトなどの採用全般業務でHRテックが利用できます。

候補者の管理・選考フローの管理、日程調整などの候補者とのコミュニケーションの効率化など、採用業務において口数が多く、必須となる業務を、HRテックによって、自動化・業務効率化することができます。

実際にHRテックを導入している企業の中でも、エントリーシートの受付・内容確認・内容審査、会社説明会の開催日程調整と告知、応募者との面接日程の調整など、口数の多い業務に関して、有効活用している企業が多いです。

また、近年では、採用活動においてSNSを利用する企業も増え、ソーシャルリクルーティングの需要も高まっています。そういったソーシャルメディアとの連動や紐付けのできるHRテックを導入することで、転職を考えている人や、優秀な人材とコミュニケーションをとり、応募まで促すことのできるソリューションまで登場してきています。

また、採用業務領域では、まだまだHRテックは発展をしており、AIやRPA (Robotic Process Automation)を活用した業務の自動化も、さらに進んできています。

2.異動・配置

働き方が多様化する中で、人事担当者の大きな課題の一つが「異動・配置転換」ではないでしょうか。ただの人員補給や、退職者の後任としての異動は、社員のモチベーションやエンゲージメントの低下に影響を及ぼし兼ねません。HRテックでは、社員の職務経歴やスキル、評価、給与水準などを一元管理し、それらのデータを元に異動や人材配置のシミュレーションが可能となっています。これら、全てのデータを基に公平性を担保した異動・人材配置が可能になっただけでなく、適材適所の組織編成が可能となっています。

実際に異動・配置に関するHRテックを導入している企業では、適正配置の検討、異動シミュレーションなど、データ分析がしやすくなることにより、戦略的な人事マネジメントが可能となっているため、これらを活用している企業が増えてきています。

3.人材育成・研修

近年では、「eラーニング」が広まってきており、資格取得やITスキルや語学、社内研修などもスマートフォンでいつでも場所を選ばず受けることができます。そのため、学習の継続率も高く、また、社員の学習成果や得点などを把握することができ、異動や昇級などに、データを活用することが可能です。

また、自社独自のものや、個別型対応のソリューションも出てきており、人事担当者のニーズに沿ったサービスが充実しています。

4.人事評価・エンゲージメント向上

ビジネス環境が激変して行くなか、従業員のパフォーマンスも細かく分析するのにHRテックを活用している企業が増えてきています。実際に、部門ごとの評価の偏りを調整し、最も数値データに基づいた定量的な評価、評価結果の妥当性の確認などでHRテックを活用し、公正で透明性の高い評価を必要としている企業が多くなってきています。

また、最近では、1年に1回・半年に1回の人事評価では頻度が少ないとして認識をしている企業も増加傾向にあります。そのため、評価制度や運用も変更している企業も多く、HRテックを活用してそれを実現しています。

5.離職対策

人事担当者の大きな課題として、離職率の低下が挙げられるのではないでしょうか。人が定着しないと企業が安定して継続することが難しく、さらに、優秀な人材が流出してしまう可能性もあります。離職率が高い場合、現状の把握が最も重要だと考えられています。

HRテックのサービスの中には、退職可能性が高い従業員を抽出して、お知らせしてくれるものがあります。社員のメールの文面やSNSでの投稿内容、職場での行動、勤怠状況などのあらゆるデータを収集・解析し、退職の可能性がある社員を予測するのに活用されています。

6.勤怠管理・給与計算

社会問題にもなっている長時間労働。三六協定のもと、社員の労働時間の管理は、人事担当者にとって必須業務となっています。そのため、HRテックを活用して、三六協定に関する従業員の管理や、従業員の労働時間確認による健康リスク管理を行なっている企業も増えてきています。勤怠情報などデータを一元化し、管理することによって、データ分析などもしやすく、原因や改善点も発見しやすくなります。

クラウド型のソリューションを選択すれば、自社でサーバーを構築する必要がなく、スマホやタブレットからでも勤怠管理が可能になるので、場所と時間を選ばず操作が可能となっています。

また、給与計算システムと連携することによって、毎月の給与計算や、有給処理など、様々な業務を自動化することが可能になっています。勤怠管理・給与計算を自動化することで、業務効率化をはかっている企業も増加傾向にあります。

7.戦略立案

今までは、組織力や個人のメンタル状態など、データ化が難しい分野での検証をしていたかと思います。しかし、HRテックでは、社内人材の評価や適性など総合的にデータ化し、把握できるようなソリューションも誕生しています。そのため、客観的なデータをもとに、戦略立案や見直しなど、タレントマネジメントがHRテックによって実現できるようになっています。

8.人事管理・健康管理

今注目を集めている「健康経営」。メンタルケアや長時間労働にかかる体調不良のケアなど、企業における健康管理強化がいま求められています。産業医による面接指導や健康相談が安心して受診できるような環境が必要です。

HRテックを活用して、社員の健康診断の結果、ストレスチェック、勤怠情報などを一元管理し、産業医との面接が必要な社員を自動判定で洗い出すことができます。さらに、産業医との面談記録も管理できるため、最新の健康状態を把握することもできます。

非常にデリケートな情報であるため、システムでしっかり管理する企業も増えてきています。

9.労務管理

労務管理においては、ヒューマンエラーのない迅速な処理が求められています。しかし、行政手続に関わる書類の作成や、申請書など大量のペーパーワークに追われている労務担当者も少なくないかと思います。

今、行政と連携して申請・手続きが行えるHRテックが誕生しています。育休取得といった複雑な手続きが必要な容易に完了でき、さらに人事労務資料の作成や、役所への電子申請も手間いらずで行うことができます。

10.リモートワーク対策

近年、様々な働き方が取り入れられているなか、リモートワークも広がりをみせています。社員のライフステージの変化にも対応でき、離職率を減らす施策としてメリットがある反面、社内コミュニケーションの減少といったデメリットもあります。

こうした背景から、社内コミュニケーションを円滑にするHRテックも多く登場しています。社内連絡をスピーディーかつ、頻繁に行えるだけでなく、システム上でお互いにボーナスを送りあえる機能がついたものまで登場しています。また、AIが社員のコミュニケーションを分析し、どのような行動を取っているかも把握することができるので、人事評価で活用できるデータも揃えることができます。

HRテック導入事例

実際に、企業はどのようにHRテックを活用し、役立てているのでしょうか。HRテックを独自の工夫で、より効果的に活用している企業をご紹介します。

1.ソフトバンク ―AIが判定することにより公平な評価が可能に―

ソフトバンクの採用選考フローは、一般的なフローと同様、エントリーシート、SPI、複数回の面接となっています。毎年約1万人の学生からエントリーシートの提出があり、約10名体制で800時間以上をかけて全員分のエントリーシートの対応を行っておりました。

このエントリーシートの評価判定に人工知能(AI)を導入、作業時間を75%削減することに成功したのです。

作業時間を削減するほか、評価基準が統一されるという利点がありました。採用担当者10名がエントリーシートを評価していると、それぞれ評価基準にバラつきが生まれてしまいます。そんななか、IBM社の「Watson(ワトソン)」を導入し、過去数年分の「合格したエントリーシート」と「不合格だったエントリーシート」1500件分を読み込ませ、学習させました。それによって、過去のデータと比較して、提出されたエントリーシートが合格なのか、不合格なのか判断することができ、合否判定が採用スタッフの判定とほぼ変わらない結果につなげ、公平なエントリーシートの評価ができるようになりました。

また、ワトソンの判定で不合格になったエントリーシートも、採用担当者がもう1度目を通すことによって、さらに公平な評価ができる環境を作りあげました。

2.テンプホールディングス ―未来を予測し、先手を打つ人事―

HR領域においてデータ活用して成果を向上させる手法を「ピープルアナリティクス」といい、今注目を集めています。集めたデータを、機械学習やAIで解析することにより、採用・人材育成などに対して、改善策を生み出すことができるのです。こうした、「ピープルアナリティクス」の技術を用いて、退職予測モデル」と「異動後活躍予測モデル」を開発したのが、テンプホールディングスです。

退職モデルは、過去の人事データをもとに、現在の社員の状態を分析、退職の可能性を予測するシステムで、正確率は約90%となっています。また、異動後活躍予測モデルも、同じく人事データをもとに、異動させたほうが良いか、異動先での活躍率などを算出することができるシステムです。これにより、先手を打つことができ、退職者の退職を事前に防ぐ対策が立てられ、適材適所な異動を実現することができたのです、

3.民間車検工場 カドマディーゼル ―HRテックで若手採用に成功―

コンテンツマネジメントシステム(CMS)を活用して、若手社員の採用に成功した町工場があります。

近年では、他社と比較した際、採用ページのクオリティや魅力が、候補者の応募数に影響を与えています。

町工場のカドマディーゼルは、プロコミット社が提供する「iRec(アイレック)」というCMSサービスを導入。一見すると、整備工場の採用ページとは思えないほど、魅力的な採用ページを作成することができ、応募者も増え、採用活動を成功させました。写真を変えたり、情報をアップデートすることで、応募者が会社に対して好印象を持つようになるそうです。

4.老舗旅館 元湯陣屋 ―業務改善で週休3日に―

HRテックのコンテンツマネジメントシステム(CMS)を利用し、業務改革し、潰れる寸前だった旅館を立て直しに成功したのが、鶴巻温泉の老舗旅館「元湯陣屋」。

「陣屋コネクト」という、勤怠・会計・経理・予約など幅広い機能を含んだ旅館専門の独自システムを作り出しました。このクラウド型システムでは、お客様情報の一元化・管理、従業員の勤怠管理だけでなく、清掃管理や設備管理、食材の原価管理、経営マーケティングの把握など、すべてを一元管理することができるのです。

一つ一つの仕事を、テクノロジーの力を駆使し、改善することで、週休三日制を実現させました。

5.JINS ―仕事の質を可視化して働き方改革―

時間当たりの仕事の質やパフォーマンスを測るモノサシがなく、何をどう改善すればいいかということが気づくことができない。しかし、この指標を「集中力」いう尺度から測定し、効果検証をサポートするメガネ型ウェアラブルデバイス「JINS MEME(ジンズ・ミーム)」。「瞬き」「目線」「姿勢」をデータとして読み取り、そのデータから集中力を測定しています。集中しているかの測定は個人でスマホアプリでも確認することができるため、モチベーションの向上にも繋がることが期待されています。

多くの企業が取り組んでいる「生産性の向上」には、集中力が不可欠です。そんな、「集中力」を数値化することによって、現状を把握することができ、オフィスでの仕事は集中力が高くなるのか、リモートワークだと集中力が高くなるかなど、シチュエーションの比較検討をし、「働き方改革」に向けた施策を立てることができるのです。

また、JINSでは、「JINS MEME」を取り入れた「集中力採用」の導入を試験的に開始。KDDIでは、ワークスタイル改革の1つとして業務環境改善に、「JINS MEME」を取り入れて、オフィスの自席やカフェテリアなど、業務を行う場所で「集中力」を測定、検証結果をもとに、分析を行い、オフィスの環境改善に役立てるという施策を開始しています。

まとめ

現代のビジネスで常にスピードを求められ、人事担当者に関しても例外ではありません。HRテックに業務の一部分を任せることで、業務効率化・自動化をすることで、より迅速な対応が可能になってきます。また、HRテックは、人事の幅広い業務領域を担え、よりスピーディーに人事戦略を行うことが可能となります。

そのHRテックを提供する企業は、今や100を超えています。そのため、何を選ぶべきか、どの人事業務領域で取り入れるか、悩みどころであると思います。そのために、まずは、自分たちがどの分野で課題を抱えているのかを明確にし、優先順位を決める必要があります。その上で、HRテックがどのよう問題解決に活用できるか検討することが大事です。

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