働き方改革でHRテックが活躍、活用のコツは?

 

はじめに

近年長時間労働が問題になっており、それで生まれてきたのが働き方改革です。働き方改革とは、働く人々が個々の事情に応じた多様な働き方ができることを示していますが、そのためには労働時間の短縮もまた大きな課題となっています。しかしながら近年日本を取り巻く状況ア少子高齢化に端を発する労働人口減少問題を乗り越えるためには、労働力不足を凌駕する方策が必要になります。そこで注目されているのが、総務人事領域でテクノロジーを活用するいわゆる「HRテック」です。HRテックとはどのようなものか、企業においてどう活用していったらよいのか知っておきましょう。

1.HRテックとはそもそもどのようなものか

HRテックは造語であり、人的資源を示す「ヒューマンリソース」と技術を示す「テクノロジー」を掛け合わせています。人事業務サービスの中に、テクノロジーを組み込んで業務を効率化することです。実は近年技術革新がすさまじい勢いで進んでおり、人事採用、評定、労務管理、人事データ管理などについても、テクノロジーの力を使ってかなり効率化されたシステムが開発されています。そのため、人事総務部門においても、HRテックに期待する人が増えてきています。

従来では、人事部門は人と人が対話してこそ、と業務孤立化からは離れた立ち位置にいて、その業務はある種「聖域化」していました。しかしながらAIをはじめとする技術革新はそういった人と人のかかわる業務さえテクノロジーの力で抜本的に変えていっています。今、HRテックは、人事総部無紋において業務運営を効率化すると期待され、徐々に市場を拡大していっているのです。

2.HRテックのできる業務領域とは

一般的にテクノロジーといわれても、今までの業務をどう変えていくのか抜本的に変えるのは難しいのではないかと思われています。採用サイトの導入などにより、多少は効率化されても、抜本的な改革ではありませんでした。しかしながらHRテックの行える業務はかなり幅広いのが特徴です。

例えば、採用業務であれば応募者の分類や選考、採用までの業務を一連管理することができます。面倒な面接日の調整などに悩まされることもなければ、SNSの活用などでレスポンスもかなり早いものができます。また、採用後の人材についてはデータが蓄積されその人のスキルなども即座に検索できます。これは、エンゲージメントといい研修などのイーラーニングから目標管理システム、そしてストレスチェックや社内コミュニケーションツールまで幅広く進みます。

また、煩雑な業務である業務管理についても、入社から休業、退職や異動など一元管理できます。外国の社員やリモートワークの社員などの労務管理もできます。また、人事業務の多くはアウトソーシングすることができ、専門家が迅速に行います。勤怠管理、給与計算、人材管理なども行えるうえ、アルムナイといって退職者ともリレーションを継続できる仕組みもあり、結婚や出産で退職していった社員の再活用も容易です。このように、HRテックの行える業務は幅広く、総合的なマネジメントシステムの構築が可能です。

3.採用業務におけるHRテックの活用

応募者の増加に伴って年々煩雑化している採用業務には、HRテックにより業務効率化をするのが適しています。大手通信会社では、AIによるエントリーシート添削を実施しています。これは、採用において500時間の工数を削減できただけでなく、極めて公平公正に合格不合格が判定されるといえます。添削が複雑な作文も、AIを使えば求める人物像とマッチするか判断してくれます。

ほかにも、AIを使った面接試験はいろいろな会社で行われています。AIを一次面接に使うことで応募者は自分のスマホから24時間いつでも面接を受けることができます。そのため、面倒な面接者との日程調整という業務がなくなります。全国に支店のある小売店などでは、全国各地に出張しなくても面接業務が自動的にできて合否を判断してくれるというメリットがあります。全国規模で採用をしているところは、HRテックを使うことで全国各地の大学から効率的に学生を採用できます。

そもそも、HRテックを使えば自動的に蓄積された人事データから今どこの部署にどのくらいの人が必要なのかといったことまで算出できます。また応募者の母集団の形成においても自動的に集められます。面倒なスケジュール調整や次の段階へ進む人への連絡まで、このような雑多な業務をすべてコンピューターが行います。会社へ適合する人材かどうかをコンピューターで判断すれば、それだけ細かい神経を使っていた採用業務がかなり様変わりします。これらはデジタル面接とも呼ばれ、徐々に業界を問わず広がっています。

アルバイトなどのスタッフ採用にもHRテックを使って効率化できます。飲食チェーン店では特に成績優秀な社員やアルバイトの特性などをデータ化し、面接前の段階で求職者を絞ることができたり、配属先を割り振ったりすることができるので、アルバイトの採用などといった業務に工数を割かずに済むようになりました。アルバイトやパート従業員は出入りが激しいので、現場としても工数を割かれます。こういった業務にテクノロジーを活用することで採用業務が不慣れな現場の店長でも、アルバイトを効率よく採用できるのです。

4.人材研修にHRテックを活用する

社員や内定者に対するさまざまなデータを一つのツールに統合し、本人の資質と求める会社のレベルに応じて育成プログラムを自動で算出してくれるのも、HRテックを人材研修に使うことの大きなメリットです。従来であれば、入社〇年目、内定者、といったように肩書だけで分けられて研修プログラムが作られているのが一般的でした。しかしながらこれでは、すでにできることを改めて研修したり、配属されているもしくは配属される現場によって求められるニーズに細やかな対応をしていないことが問題でした。HRテックを使えば、膨大な社員のデータが蓄積されているので人一人一人にあった研修プログラムを組むことができます。

加えて、イーラーニングもHRテックの一つのかなめといえます。イーラーニングはパソコンさえあればどこでも自分に必要なプログラムを履修することができます。入社していない内定者や、育児休業、介護休業で離職している人でも自分に必要な研修プログラムを受けることができます。

5.労務業務、給与管理にHRテックを活用

面倒だけれど絶対に失敗が許されない業務が労務管理、給与管理です。給与を正しく計算することは、会社の信頼に関わってくるからです。大手建設会社では、このような煩雑な労務業務にHRテックを導入し、効率化を図っています。給与計算はもちろんのこと、給与明細発行業務や入退社、異動や休業に伴う社会保険の書類の作成手続き、役所への申請業務などです。これは、人事の仕事のなかでも毎月のように発生し、当然のように工数を取られるものです。大手建設会社では、この労務手続きや管理業務にHRテックを導入したことから、その業務にかける日数が約1週間から1日になったという報告があるくらいです。

そもそも、給与業務だけでなく労災保険や雇用保険料の計算など毎年発生する業務についてもHRテックを活用している会社は少なくありません。そのような毎年必ず発生する業務であれば、外部委託するのも簡単だからです。勤怠管理についても、HRテックを導入することで多様な働き方をする現代の会社員に臨機応変に対応できるのです。最近ではLINEなどSNSとも連携し、外回りの仕事や在宅ワークであっても社員の勤怠を出先から管理できるシステムが人気になっています。給与計算システムと連携すれば、働いた分だけ給料や手当がもらえ、従業員にとってもより透明性が上がるのです。

最新のテクノロジーでは、公的機関で進んでいる電子申請をそのまま活用して、インターネットにて社員が申請するだけで届け出も含めてすべてクラウドで完結することも可能になりつつあります。従業員の入社、退職、異動、結婚、出産などライフステージの変化の都度人手がいった作業が、クラウド上で完結してかなり効率化されることが期待されます。

6.社内コミュニケーションにHRテックを活用

最近問題となっているのが、飲食業での離職率の高さです。特にアルバイトに至ってはすぐに辞める人が続出して入れ替わりが激しく、現場の負担も相当なものになっています。HRテックを導入する前は、本部とコミュニケーションをとれるのが店長などわずかな人員でした。最近では店長が店舗を兼任していることも多く、本部との伝達事項やコミュニケーションが的確に取れない現場も続出していました。

しかしながら、大手飲食会社では、アルバイトも含めたコミュニケーションツールを導入することで、本部からの指示をそのままアルバイトに届けられるようになり、現場の負担も減りました。それだけでなく売り上げの実績や役員からの感謝の言葉をシステムを通じてダイレクトに届けられるので、就業意欲がわき、アルバイトの離職率も10パーセント低下したようです。会社においては、的確にコミュニケーションをとることがとても重要であり、今日、SNSを中心とした新たなコミュニケーションツールが世に出てきていることを考えると、こういったテクノロジーを活用する意義は十分にあります。

7.人事戦略の立案や仕事管理にもHRテックを活用

人事部門において重要な仕事が、人事戦略を立案して実践することです。確かに、人事戦略は人が立てないといけないのですが、コンピューター上で社員の職務履歴や持っているスキル、行動特性などが一覧化されていると、次にどこの部門にだれを配属することで戦略が実現できるか考えるのに役立ちます。

そもそも、社員のデータといっても持っているスキルから異動履歴、経験した業務や家庭の状況など管理すべき項目がかなり上がります。戦略上の組織改編であっても、異動が伴えばそれだけ手当など福利厚生の費用が出ていくのが当たり前で、単身か家族がいるかによってもその金額が違ってきます。従来であればそういったことについて人事部がいちいち調べなければならなかったものが、データで一括管理されているのでいつでも検索で来て便利です。このような社員データについては多くの会社がテクノロジーを活用しています。

最近のHRテックでは、そのデータはかなり緻密になってきています。本人の適正と会社側の希望を調整して最適な人事異動を提案したり、その人のスキルを補う育成プログラムを組むこともできます。加えて、モチベーションマネジメントや、健康診断データを蓄積させることで健康マネジメントに使うことができるなど、かなりその幅は大きいです。それだけでなく、人や組織の作業量や作業工程を分析することで、非効率な業務の改善や廃止などにつなげていけます。人材をより適材適所に配属させることや、職場環境の向上へも役に立つのです。

8.在宅勤務者とのコミュニケーションに活用

最近では働き方改革の流れにより、いろいろな働き方をする人が増えてきており、在宅勤務もその一つです。在宅勤務は、育児や介護をしている社員にとっては歓迎される働き方です。そのようななか、大手通信会社では分身ロボットを会社において、在宅勤務をしている人とコミュニケーションを取り、まるでその場で一緒に働いているかのように仕事をする試みが進んでいます。リモートワーカーが増えることを見越して、そういったニーズに対応しようとしているのです。

特に介護や育児といった問題は、誰にでも降りかかり、育児や介護で離職する人も少なくありません。そういった人でも在宅勤務なら活躍できることがあるでしょうし、労働力人口の減少にも対応できます。通勤ラッシュや待機児童問題、介護問題などの社会問題の渦中にある人であっても、問題なく働くことができる一助になります。

9.HRテックを活用するにあたって注意すること

実は、人事分野でのHRテックの活用は進んでおり、2019年4月時点で390ものサービスが存在するといわれています。それだけでなく、ニーズの細分化に応じて毎年のように新しいサービスが生まれており、かなりの成長が見込まれる市場の一つです。加えて、労働環境も複雑になっていることから労働作業の効率化もより一層求められています。海外で活躍する社員のためにも、グローバル化も必要になってくるでしょう。このように多様な様相をみせるHRテックのなかから、自社に向いたものを選ぶことが必要になってきます。

あまりにも複雑なシステムを入れてしまうと、まず使いこなすのに多大な労力を必要とします。たとえば、AIのように高度なテクノロジーを活用するのであればある程度コンピューター業務に長けてから利用するなど、どのシステムをどのタイミングで使うか考えなければなりません。情報の一元管理ができることも、HRテックの特徴の一つですが、その一連の情報をどのように活用するかがポイントの一つです。そういったことを考えてからシステムの導入を考えるようにしましょう。

HRテックを導入するのには、人事部だけが努力すればよいということではありません。長年人事業務を経験と勘に頼ってきた役員であればそういったシステムに前向きになれないことはよくあることです。また、人事部だけが楽をしようというように思われたりすることもあるでしょう。どうしても社員がクラウドを使うようなシステムでは、社員がまるで自分の労力が増える、と思ってしまったり監視されているような気分になったりすることもあります。こういったシステムを導入するには、経営層や社員の理解が必要不可欠です。そして、人事側も考えなければなりません。このHRテックは、完全に人事業務を置き換えるものではないということです。HRテックを使うには、しっかりとしたデータをもとに科学的に業務を行う、効率化できるところは効率化するといった考えや基本をしっかりと認識することが必要です。

おわりに

少子高齢化社会がますます進み、労働力も多様化してきます。そのなかで人事業務や総務業務について、テクノロジーを活用することで効率化すると期待されているのがHRテックです。HRテックは採用、労務管理、給与管理や人事評定など多岐にわたります。クラウドを使えば、入社手続きから異動や休業の手続きに至るまで直接やり取りすることも可能になりますし、グローバル市場やリモートワークの人にも対応することができます。HRテックは現在多くの会社で利用されており、採用や給与計算、労務管理などいろいろな業務を効率化するのに役立っています。HRテックと一口にいってもさまざまなシステムがあるので自社に合ったものを使うことが必要です。

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