変わりゆく日本の労働のカタチ。人事としてやっていくべきこととは?

働き方改革が本格的に制度として始まり始めている今日。人々の労働への意識や働き方に変革が起こっている今、人事として優秀な人材を留保しておくために知っておくべきことがあります。現状から、働き方改革の内容、今後のトレンドなどから今後人事としてやるべきこと、備えておくべきことを見ていきましょう。

  

働き方と日本経済

2008年のリーマンショック以降、就職氷河期と呼ばれる就職難の時代を経てこの10年の間で、日本人の労働に関する考え方や有様などが大きく推移してきました。

高度経済成長を支えてきた大手企業でさえ、経営的事情からリストラをしたりと、信頼性が崩壊しつつあることも昨今のトレンドです。
大企業に入社しても安定した生活が得られず、人々の不安は終身雇用制度の崩壊を意味しました。

終身雇用制度の崩壊により、転職を前提としたキャリア形成や新しい働き方が普通の世の中になってきました。新卒入社のおよそ3人に1人という割合で離職が進んでいます。また近年若者の間ではYouTubeやソーシャルメディアなどを使い、個人の発信でお金を稼ぐことで会社に勤めない、という働き方を選ぶ人も増加しています。今や終身雇用制度を求人情報にまともに謳うような企業はほとんど残っていません。

そのこともあり、安定を得るために公務員を志望する若者が急増しました。大企業のリストラなど将来に不安を抱え育った若者は、必然的に大きな買い物や投資をためらいます。そのうち、若者は夢がない・お金を使わない・若者の〇〇離れといったネガティブな言葉がメディアから言われ始めますが、近年の若者は絶対的に安定したものでなければお金や時間をためらう傾向があります。

その反面で、車・家などのシェアリングエコノミーが普及し、若者が大きな投資をして所有をしなくても良いようなビジネスモデルが台頭してきています。若者だけではなく、便利なサービスなのでその勢力は増加の一途を辿っています。

働き方改革のこれまで

近年に見られる”働き方改革”の大きな後押しをしたのが、2015年に起こった電通社員の過労自殺事件です。誰もが知っているような大手広告会社で起きたこの事件は、一時期メディアを大きく騒がせました。そこで政府は日本の長時間労働のイメージを払拭するため、2016年9月より「働き方改革実現推進室」を設置し数々の政策を打ち出しました。根底にあるのは昨今の長時間労働の問題の他にも、少子高齢化による労働人口の減少への対策や景気回復および失業率の低下というのも含まれています。

月末の最後の金曜日をプレミアムフライデーと名付け、
午後3時(15時)に仕事を終えることを奨励する政策を政府が打ち出しました。当初こそ話題になっていたものの、今や言葉だけが残り形骸化し、ほとんどの企業が実践しているとは言えない状況です。多くの場合で月末は締め日となっているため通常よりも圧倒的に業務が増えるためです。そんな日に早く帰ろうなんていう政策を打ち出されても、そんな余裕がない企業がほとんどと言えます。

ノー残業デーはプレミアムフライデーよりも比較的実践へのハードルが低く、多くの企業で実施されています。例えば、週に一回は定時上がりにしたり、一定の時間を過ぎると強制的にパソコンの電源や電気が消灯されるといった環境づくりをしています。しかし、実際のところ持ち帰り家で仕事をすることも少なくないというのが実態です。抜本的な改革を図るには会社の業務量を減らすか、労働力を補うしかないのです。ところが、年々労働人口は減少しているため、機械に頼るほかないのですが、実際に導入するには莫大なコストがかかるため、多くの中小企業が抱える問題となっています。

他の国ではどうなっている?

少し視点を変えて海外の働き方に目を向けてみましょう。実は日本は先進国の中でも圧倒的に完全失業率が低い国です。率直にいって恵まれている国です。労働人口が少ないので大体誰でも大学さえ行けば特別なスキルがなくても若いというだけで、それなりの仕事に就くことができます。

アメリカは日本と同じ、またはそれ以上にハードワークをしている国として知られています。特にITなどのテクノロジー業界は一見すると華やかに見えますが、競争が激しくワーカホリックが多い業界でもあります。日本のお隣の韓国でも長時間労働をする文化が根強くあります。それに加え、若者の就職が日本に比べて難しいとも言われ、海外でキャリアを形成する韓国の若者も増えてきました。さらにそのお隣の中国では、都市部と地方の格差社会が相変わらず開いています。中国もアメリカを超える勢いでテクノロジーが発展してきていますが、その一方で残業の文化も残っています。

よく日本の労働と比較されがちなのがヨーロッパの仕事倫理です。特にドイツはよく手本とされてます。労働時間が短いにも関わらずGDP(国民総生産)が日本に次ぐ世界4位に位置しています。ドイツでは労働者の権利が徹底的に重視された法が定められており、例えば、残業をさせすぎると国から罰金されるなどといった規則が定められています。

副業解禁・フリーランス増加

2018年4月より副業・兼業が解禁となりました。しかし実際のところ、株式会社リクルートキャリアによる2018年9月の調査では副業を積極的に推進しているという企業は調査対象2,271人のうちわずか3.6%、容認している企業は25.2%に止まりました。国が打ち出した政策にも関わらず世間の半数以上の会社が就業規則において副業を禁止しているという結果になりました。リクルートキャリアは前年にも同様の調査を行なっており、その際副業を推進・容認している会社は22.9%だったことからわずか5.9ポイントしか上昇していないことが明らかになりました。

ちなみに兼業・副業を禁止している会社の理由として「社員の長時間労働・過重労働を助長するため」と答えた人が半数近くいました。また副業による人材流出を防ぎたいという意見がある一方で、人材の長期定着のために副業を容認している企業が多くいるというのは非常に面白い点です。

またクラウドソーシングというアイデアが一般的になり、企業に属さずに個人で企業の仕事を請け負うフリーランサー(自営業)も増えてきてます。また副業をする人を労働の基盤とするようなUBER EATSなどのサービスも出てきています。

社員が何を求めているか

これからの時代は優秀な人材を確保するために、社員のニーズや求職者のニーズを汲み取り、いかに自社を魅力的に見せるのかというのが人事の仕事になってきます。売り手市場、人手不足とこの1、2年で言われてきていますが、新しい人材の確保だけでなく、現在抱えている社員のケアは非常に大切になってきます。釣った魚に餌をあげないという企業が多いので、転職市場が盛んになってしまうのです。

もちろん給料を上げるというのは簡単なことではありません。会社には予算というものがありますから。そこを会社とうまく折り合いをつけるのも人事の仕事ではありますが、あまり現実的な解決策ではないかもしれません。しかし、昇給をしやすい仕組み作りをしてあげることはできます。その他にも社員は福利厚生を非常に大切にしてます。最近では様々な外部サービスを福利厚生として与えられるようにベネフィットステーションなどというサービスも出てきています。

その他大切なのは個人のキャリアへの考えやワークライフバランスを尊重してあげることです。上記でご紹介したように副業が解禁され、パラレルキャリアと呼ばれる二足の草鞋を履く人も増えてきています。もはや昭和時代のように長く働くことが美徳という時代はとっくに終わりました。私生活を重視する人もいれば、趣味や本業の仕事以外で自己実現をする時代です。本業に支障が出るからなどと頭ごなしに否定するのではなく、個人の幸福を考えるようにしましょう。従業員の精神的な幸福は本業への仕事のモチベーションとなり、さらなる効率化を生むこともあります。

働き方改革の一環として「時間外労働の上限規制」が設けられました。大企業では2019年4月より、中小企業はその1年後から施行される予定になっています。本来であれば、1日8時間で週に40時間が法定労働時間とされ、これを超える場合は労働基準法第36条に基づく36協定の提出が義務付けられていました。特別条項を定めていれば無制限に残業をさせられましたが、月45時間、年360時間というルールに改善。さらにこれに違反した場合、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科せられるようになります。これにより企業は長時間労働を社員に強いることが難しくなっていきます。しかし問題なのは、結局のところ仕事の母数を減らすことが難しく、家に仕事を持って帰らざるを得ない人々が一定数出てくることが予想されることです。今まで残業ありきで成り立ってきたような会社は仕組みを抜本的に見直し、効率化を図ることが求められてくるでしょう。

キャリア格差時代とは

今後10年で人々のキャリア格差がどんどん広がっていくことが予想されます。主に2つの観点から見てきましょう。まずは非正規社員と正社員間での格差です。現状でも賃金格差や福利厚生面での格差が目立ちます。例えば、派遣社員は社員食堂を使えず、非正規社員の賃金は正社員の賃金のおよそ6割程度しかないと言われています。これはある種、人材派遣業の力が非常に大きいことも理由の一つでしょう。働き方改革の一環として、正規雇用労働者と非正規雇用労働者の待遇に差をつけることを禁止するという「同一労働同一賃金」政策が施行される予定ですが、実質的に企業がどこまで従うかどうかはわかりません。常に企業というものは利潤を追求するあまり、法の抜け道を見つけグレーゾーンで搾取し続けるものです。

次にあげられるのが、個人でのスキルやポジショニングでの格差です。2018年はAI元年とも言われるほどAI関連のニュースがメディアを騒がせました。その際にいつも話題になるのが、AIが我々の仕事を、奪ってしまうのではないかということ。技術革新はものすごいスピードで進んでおり、AIが技術的にその域に達する未来はそう遠くないと言えます。おそらく10年はかかりません。

あとは民間企業にその導入コストの余力があるのかどうかというところですが、仮に導入できる社会体制が整っていると仮定しましょう。ちなみにAIの技術はいわゆるペーパーワークと呼ばれるような書類整理や経理、データ入力などのタスク業務をいとも簡単にこなすことが可能と言われています。その他にも、最適な顧客にターゲティングをするような広報の仕事の一部や、統計データから販売予測を立てるマーケティングの仕事など、全てではないですが一部担うことが可能です。

定年が70歳へと引き上げられていく中で、会社自体の売り上げが上がらなければ給料が増えることは期待できません。そこでスキルを持っている人と、持っていない人の間で大きな差が生まれます。当然ながら会社にとって必要なスキルを持っていない人は昇給を望めど、希望が通る可能性低いと言えます。そして何よりも厄介なのが、年功序列のような雰囲気が残っていると、会社内での立ち回りも非常に難しくなってくるということです。立場だけ昇格させて決定権は年配者にあるような仕組みや、成果が評価に反映されなければ、有能な若手をとどめておくことが難しくなります。

新卒一括採用はどうなっていく

新卒の一括採用を取りやめる企業も出てきていますが、おそらく日本の大学が就職予備校として存在し続ける限り、新卒一括採用の仕組みは続いていくことでしょう。しかしそれだけに依存することなく、インターンなどを用いて優秀な人事を発掘、勧誘をしたりすることも大切です。最近では逆求人型と言われるような、企業側から学生にアプローチをするスカウトタイプの人材サービスも増えています。今までと異なるアプローチを試みることで、競争率を下げて優秀な学生を採用していくのが重要になっていきます。

転職市場の変革

日本は労働人口に対し、派遣業などを含む人材サービス企業の割合が世界的に見ても非常に高いという事実があります。これは日本人の仕事に対する倫理観がとりわけ鋭いことと、ビジネスをするときに比較的元手がかからないのが要因です。そのため就活生にとっても転職組にとっても、どの人材サービス・求人サイトを使うのがベストなのか、迷ってしまうほど乱立しているというのが現状です。

近年ではリファラル採用と呼ばれる採用方式も徐々にブームになってきていますが、トレンドは今後数十年変わっていくことはないでしょう。またGoogle for Jobsが2019年より日本でのサービスを開始したことにより、従来は広告掲載料や成功報酬を人材会社に払って浮いたものが、文字通り無料で求人広告を出せる時代になりました。売り手市場ということもあり、今後求人関係を扱う会社が淘汰され、より求職者が会社まで辿り着く道がわかりやすくなります。

人材のダイバーシティと公平性

人手不足、長時間労働が問題になっている一方で企業は、クリーンなイメージを世間に印象付け、同時に人手不足を解消するという目的で、障害者雇用を積極的に取り入れている企業が増加傾向にあります。そして男女格差の均一化による女性の積極的な雇用と昇進。育児休暇を福利厚生とする企業がもはや当たり前になってきているので、今まで主婦と呼ばれてきたお母さんたちにも、正規雇用で働くチャンスが巡ってきます。問題は、都市部を中心に保育園が足りていないことです。そのため企業がオフィス内に、託児所を設けるなどという動きも出てきており、今まで専業主婦やパートタイムを選択せざるを得なかった女性たちが、正社員として復帰できるような社会に変わりつつあります。また入管法の改正により、外国人が日本で働きやすくなったことから外国人労働者が増えることが予想されます。特に一部の技術職では外国人のとってネックである言語を比較的そこまで必要としないため貴重な労働力になります。

人事としてやっていくべきこと

少子高齢化が進み、労働人口が減っていくことを考えると人材の確保がどんどん難しくなっていきます。優秀でスキルを持った人材は、どんどんと他の会社であったり海外に出て行ってしまいます。そのようにならないためにも、社員が離れていかないような仕組みづくりをすることが人事に求められています。社員が満足するような仕組みを作っていけば、自ずと求職者にも魅力的な仕組みができるようになります。

もう一つ覚えておいて欲しいことがあります。人事の仕事もAIに奪われてしまう仕事の一つです。全ての業務ではないにしろ、いくつかのプロセスはすでにAIに取って代わられています、ソフトバンクをはじめとする大手企業ではAI採用技術を導入し、エントリーシートの閲覧をAIが行なっています。反対にAIには難しいのが人事の経験を生かした仕事です。つまり求職者の感性を見抜く面接のような仕事をAIが代替するのは難しいでしょう。求職者が会社に合う人材かどうか見抜くのは人事の手腕にかかっていると言っても過言ではありません。

そして人事に求められるのは福利厚生のプログラムを考えることであったり、職場の人間関係を改善するような仕組みづくりです。現に、退職理由の常にトップとしてあげられるのは人間関係です。ネガティブな要素を少しづつでも排除できるような仕組みを作っていくことで人材流出を防ぐことができます。

今からできることを少しずつやっていくことが将来、会社を守ることに繋がります。

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