HRテックの最前線 企業の取り組みについて

 

はじめに

日本の労働市場においては、少子高齢化が急速に進んでおり、遠くない未来に労働力不足が想定されています。そのようななか、どの業界においてもAIをはじめとする最先端のテクノロジーを取り入れ、業務を効率化、省力化することが必要になってきます。しかしながら人事部門においては、長年人事業務は人でないとできないと思われていたため、なかなかテクノロジーを取り入れることはできませんでした。そんななか、人事業務にも最先端のテクノロジーを取り入れること、すなわちHRテックの最前線が今注目されています。HRテックの最前線、各企業の取り組みを抑えておきましょう。

1.HRテックは急激に成長を見せている

HRテックは、ヒューマンリソースとテクノロジーをかけあわせた造語で、ヒューマンリソース、すなわち人事部門にもテクノロジーを取り入れることで労働力不足を緩和しようとする人材企業です。人事部門の仕事といっても採用から労務管理、給与計算や人事評定、福利厚生に至るまでかなりのボリュームがあり、それぞれに応用されるテクノロジーにも違いがあります。そのため、現在では390を超えるHRテックがリソースされています。

このようなHRテック市場は、従来人でないとできないと考えられていた分野にも入り込み、急激に成長を続けています。また、人工知能AIを取り入れることで今までは省力化が難しいと思われていたところにまで入り込み、従来の工数を8割も削減するという成果を表しているといえます。特に人事部門においてはグローバル化による人事業務の煩雑さ、採用母集団の巨大化による優秀な人材の採用などといったところにも活用し、成果を上げています。今後もこれらの流れは加速することから、HRテックを取り入れる企業は増えていくと考えられます。HRテックを導入することにより、複雑かつ人のできないと思われてきた業務を機械ができるようになるこの一連の流れは、人事業務に新しい刺激を生むのです。

2.簡単に人材採用ができる仕組み

人事採用において、HRテックの導入はかなり進んできました。たとえば、多くの企業において書類選考にAIを導入しており、独自の人工知能でエントリーシートを通過させるかどうか決めることができます。面接試験においても、AIを面接試験に活用することで遠隔地まで出かけなくても面接試験を実施します。このシステムは採用試験にかかるスケジュール管理の煩雑さや面接官確保の難しさといった問題を一挙に解決することができますし、交通費負担を考えると応募者にとってもメリットがあります。それは、両者にとってウィン=ウィンの関係になります。

単に採用活動の工数削減を目指すものだけでなく、最近のHRテックは進化してきています。たとえば大手人材会社の提供するシステムは、採用された人が活躍する、入社後活躍の推進を目標に行われています。雇用の流動化が進んだことで、転職をする人は少なくありませんがその後そのような人材が活躍することを焦点に充てたシステムです。転職をした人が転職先になじめず、また転職してしまうことは採用側にとっては大きな無駄になります。採用コストが無駄になるだけでなく、その採用にかけた経費が無駄になるからです。

このシステムは会社の「口コミ」に焦点を当て、口コミサイトと求人システムを融合したかたちで提供されます。本来であれば人材会社は転職機会が多ければ多いほどそれに伴う利益収入も得られるわけですが、そうはしないところに会社側、人事部サイドを考えてつくられた画期的システムです。企業の口コミは転職者がとても知りたい情報です。というのも、中途採用というのは、なかなか企業の情報収集をする機会もない割には一度就職しているので企業を見る「目」は肥えています。そのようなニーズに特化して会社の口コミを集めることで入社時のミスマッチをなくすようにします。特に採用ページを用意していない企業にも重宝されています。

3.労務関係を自動化するクラウドサービス

労務関連手続きを自動化するクラウドサービスを提供している会社もあります。人事業務の中で煩雑な業務は、労務関連の手続きです。従業員を雇用するにしても、入社、転勤、自己都合の引越し、結婚や出産休暇、育児休業や介護休業、病気休業などそれぞれにそういった業務がついてきます。特に海外に支社を持っていたり、在宅ワークやパートタイマーなど多様な働き方をしている会社では、一人一人のそういった業務にかかる工数がかなり大きなものになります。役所に申請が必要なものがあったり、ときには急いで処理しないといけないものがあるとどうしても他社委託では補えないところもあります。

こういったクラウドサービスでは、電子申請を基本としていますので自宅に居ながらにして従業員一人の申請でそれを人事部が認めれば自動的に各種届け出もしてくれます。また、労務管理として就業システムと連動しており、出勤退勤などを入力することで給与計算からウェブ明細発行までできます。年末調整など毎年の業務も行えるので、季節ごとにしなくてはならない業務も省力化できます。季節により毎年残業を強いられていた人事部の仕事も変わってきます。

実際にこのシステムは3700社程度利用されており、そこで省力化された部分をリモートワークの推進など最先端な就労環境を作り出すのに使えます。そのため、先進的な企業に有能な人材も集まりやすいですし、社員の生産性も向上しています。当たり前に発生する業務をテクノロジーの力で省力化し、有能な人材を集めたり社員の生産性を向上するためのシステムに労力を注ぐことで結果的に社員が働きやすく生産性も向上するのです。

4.人材活用にHRテックを採用

欧米企業では2000年代半ばから複雑なマーケットでの人材活用をすすめようとする動きが強まってきました。日本のHRテックにおいてもそのような流れがあります。グローバル市場、海外で活躍する人材の発掘活用についてもHRテックを使って活用する時代が来ています。入社するときから応募者のデータを蓄積しておき、それを会社でのジョブローテーションに使って行きます。そうすることで膨大な人事データを管理し、その人にあった業務を実現できます。

従来であればそれくらいのデータはエクセル管理や人事担当者のもとに管理できていましたが、日本においてもグローバル化が進んできた結果、そのような管理も複雑化、煩雑化するようになりました。2010年代以降、日本においてもそういったデータを一括管理するシステムのニーズが発生しており、それを使用することで適切な人材抽出や個々のキャリア形成支援を実現することができると期待されるからです。HRテックを導入することで複雑なグローバルマーケットでも適材適所に人材を配置できます。

日本企業においても、労働力減少が進んでくることから、人事戦略を実現するためにも今ある人材の能力を引き出すことも大切な人事部の仕事です。しかしながら、社員全員の能力や経歴をインプットするだけでも難しいことです。HRテックが進化することで、仕事のニーズがあれば、それに合った人材をコンピューターがピックアップします。人材データ化における言語の壁も乗り越え、グローバル市場においてもふさわしい人材をピックアップし、そして配属することができるのです。

5.給与管理や労務管理にHRテックを利用

給与管理システムは、人事システムの中でも最もテクノロジー化されているものであり、HRテックの中でもいろいろなシステムが生み出されている分野です。最新の技術を搭載した人事システムでは、リモートワークや海外での出勤退勤にも対応しています。そのため、働き方が多様化されている時代にも対応しています。また、給与計算は人事業務のなかでも煩雑な業務であり、工数も人手も取られるものです。最新のHRテックを導入したシステムであれば、出勤退勤を入力するだけで自動的に給与や社会保険料などを計算します。労働保険や雇用保険など1年に1回発生する事務、各種届け出についても網羅しています。

今後働き方改革に伴い色々な働き方をする人が増えてきて、ますます給与管理や労務管理の事務の煩雑さが増えていくことでしょう。そのような環境においてHRテックは、事務を簡素にしてくれるのです。それだけでなく近年の課題であったサービス残業問題についても、出勤退勤がダイレクトに給料に反映することになるのでそのような社会問題の解決につながります。HRテックは人事業務において労働工数削減という大きな役割を果たしているのです。

6.組織マネジメントや離職率の低下のためにHRテックを活用

AIを使った最先端のHRテックを使い、効率的に有能な人材を採用することで労働力不足を補おうとすることが期待されていますが、既存の組織や人員の力を最大限活用するためにもHRテックは大きな役割を果たしています。たとえば、アルバイトやパート従業員も含めた管理をすることによって、既存の人事管理では個々の能力が区分されることもなかったアルバイトやパートにおいても適材適所に配置することができます。また、組織の目標をアルバイトやパート社員にまでダイレクトに共有するコミュニケーションツールとして使用している会社も増えてきつつあります。

加えて、離職率の低下も期待されています。社員が上司やチームメンバーとより綿密なコミュニケーションを取ることができるようになれば、コミュニケーションのずれからくる離職を低減できます。加えて、出勤退勤の処理と給与計算がダイレクトに結び付ければ、離職の一因となるサービス残業も発生しなくなりますし、健康を害するような長時間労働についても事実を洗い出し早いうちに指導したり業務の見直しを行えます。

社員の健康診断データと関連させれば、健康データと結び付けられ、病気による離職を減らせます。特に健康診断で要再検査、というデータが出た際、従来であれば受診は個人の裁量に任されていたものが再検査を受けさせることが出来、病気の早期発見もできます。このように、HRテックを使えば既存の社員と職場のミスマッチを防いだり、今ある人材でより効率的にパフォーマンスを遂行することもできるのです。離職の原因となりやすい問題、サービス残業や心身の疾病についても早期に問題を発見し、それを是正することができるようになります。

7.効率的にHRテックを導入するためには

人事部門におけるHRテックの領域は広がっており、毎年多くのプログラムがリソースされています。従来であればグローバルに展開する企業向きだったHRテックツールですが、最近では日本向けのプログラムも開発されてきています。そのようにテクノロジーを取り入れればいくらでも取り入れられるような環境にいるのが今日の人事部ですが、だからといってすぐにプログラムを入れてしまうと、実際には使いこなせないという問題が発生します。

そのためにはまず、タスクの可視化をすることが必要になります。人事部の仕事は、採用や研修、労務管理や給与計算、人事評価から人材配置に至るまで一口では言い表せないほど複雑にタスクが絡み合っています。異なるタスクの集合体だからこそ、どの部分をAIに任せるかを決めなければなりません。HRテックには導入コストがかかりますが、使いこなしさえすればかなりの労力を削減できます。コスト面から考えても、すべてのタスクをAI任せにはできませんから、まずは仕事を可視化して、そのなかでHRテックを導入できるものはなにか、と考えることが必要です。

タスクの可視化は、こういったHRテックを導入する際に経営陣の理解を得るためにも必要不可欠なものです。特に人事が行っている仕事は利益を生み出さない分、価値を測るのが難しいのです。そういった仕事に大金を費やしてシステムを導入することに納得していない経営者も少なくないでしょう。しかし人事業務を行っている人が半ば慣例的にやっているような仕事にも、かなり多大なコストが発生しています。採用業務ですと毎年、給与計算業務だと毎月になるので、その積み重ねはかなり大きくコスト増となって積み重なります。そのような点から見ても、HRテックを導入する前にタスクの可視化は必要なのです。

8. HRテックの導入に伴い起こる問題と解決策

かねてから人事業務というのは人が人を裁量するというところから、テクノロジーを取り入れるのが極めて難しい分野と言われており、そこは時代が過ぎても変わらないことの一つです。採用業務においては、AIが判断することに嫌悪感を覚えている学生もいます。半数以上の学生が、「書類審査にはAIを使っても仕方ないが面接ではAIに判断されたくない」と思っていることにも顕著に表れています。本来であれば採用業務にAIを取り入れることは遠隔地からわざわざスケジュールを調整し、受けられない企業を諦めなくてよかったり、面接官による評価の不平等感を減らせることにもつながります。ですが、本来メリットを感じるべき層がメリットよりも嫌悪感を感じることもあります。

HRテックを導入することでコミュニケーションをより取れるようになることも同様で、HRテックを導入することで職場以外も拘束されるのではないか、という懸念を持つ人もいます。健康状態を含めたデータまで一括管理をすることに不安や抵抗感を覚える人もいるでしょう。そのような抵抗感をなくしていくことは、常日頃から従業員にパソコンやクラウドに慣れさせておくことが必要です。そうすることで、HRテックを導入しても比較的簡単に受け入れられるからです。

新たなシステムを導入するときには、どこまでHRテックを取り入れて、どこから人が判断するといったことを考えたり線引きしたりすることも必要です。たとえば、採用業務においてAIが判断することに抵抗を覚える層がいるのは当たり前だと考えて、まずは会社説明会や会社への質疑応答など選考に関係のないところから取り入れていく企業もあります。また、従業員とのコミュニケーションツールとしてHRテックを導入するなら、店舗と本部を結ぶというように、メリットが感じられることを先に行うという方法をとっている企業もあり、従来は掲示や一斉メールで行われた一方的指示が双方向コミュニケーションになるので抵抗感が薄いこともあります。

おわりに

人事業務にあたっては近い将来迎える少子高齢化に伴う労働人口減少や、近年ニーズが増大している働き方の多様化などに速やかに対応する必要があります。グローバル化も進んでいくでしょう。こうした社会情勢に向き合うにあたり、既存の仕事をHRテックを導入することで抜本的に省力化し、そして組織力の強化などに限られた人材を投入することが責務と言えます。自社にあったシステムを速やかに導入することが求められます。

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