なぜ今?HRテックが注目される理由

アメリカをはじめとした世界各国でHRテックに関する動きは年々高まりつつあります。HRテックとは、HR(Human Resources)領域と呼ばれる人事に関する領域にテクノロジー(科学技術)を活用し、より効率化をめざした応用技術の事を言います。

では、日本における、HR領域を取り巻く状況はどうなのでしょうか。

日本では、少子高齢化が進み、労働人口の減少により一人あたりの労働時間が長くなっていることが、問題となっていました。労働時間が長くなる、休日出勤の増加により、メンタル疾患患者数は増加傾向となり、メンタル疾患による経済的影響が問題となっていました。

そこで2019年4月より働き方改革が始まり、長時間労働の是正や有給休暇5日間の取得義務などがスタートしたため、一人当たりの労働時間についてより効率化が求められるようになりました。

働き方改革が始まる以前より、HR領域におけるさまざまサービスが始まり、

限りある人材資源をAIによるテクノロジーで効率的に活用する技術であるHRテック。

盛り上がりを見せるHRテックの経緯やHRテックを利用したサービスなど、なぜ今HRテックが注目され続けているのか、ご紹介いたします。

 

1、HRテックとはそもそも何か?

 最近HRテックという言葉がネット上でよく聞かれるようになり、いろいろなサイトでHRテックやHR領域など、HRについて書かれた記事を見かけるようになりました。

ご存知の方も多いと思いますが、HRとはHuman Resources、すなわち日本語で人事のことを指し、テックはテクノロジーのことで、HRテックとはHuman Resourcesとテクノロジーをかけて作られた用語のことで、採用や、労務管理、社員育成など人事全体に関する処理をIT関連技術を用いて、より適正に効率的におこなう技術のことを言います。

HRテックが始まったのは、2000年頃アメリカのシリコンバレーからで、人事業務にIT関連技術を取り入れたHRテックサービスを行う企業が表れはじめるようになり、市場を拡大していきました。

日本で注目されるようになったのは、2015年頃からで、主にベンチャー企業を中心に市場を拡大してきました。

労働力不足が問題となり、働き方改革がはじまった日本では、HRテックを用いたサービスや、市場の拡大を続けており、働き方の多様化、雇用の流動性に対応するために、HRテックサービスは今後さらに拡大していくと考えられています。

1-2 HRテックが普及するきっかけ

 2015年頃から普及しはじめた、HRテック関連事業ですが、ここ最近注目を集めています。その理由は、働き方の多様性や終身雇用制度にとらわれない働き方が注目を集め始めたこと、2019年4月より開始された働き方改革が原因と考えられるでしょう。

1-2-1 少子高齢化による労働力不足

少子高齢化により働く人口が少なくなったことが懸念されはじめました。総務省統計局における労働人口調査では、「就業者数は6708万人。前年同月に比べ37万人の増加。76か月連続の増加」(総務省統計局 労働力調査(基本集計)平成31年(2019年)4月分(速報)2019年5月31日公表より引用)となっています。

一見、労働人口が増えているように感じられるかもしれませんが、厚生労働省のホームページによりますと、生産年齢人口は減少しており、将来における労働力不足が懸念されています。

1-2-2 働き方改革がスタート

出産や育児、介護による優秀な社員の離職、長時間労働による社員一人当たりの労働時間の長期化などが問題となっていました。働き方改革がスタートしました。

働き方改革と呼ばれる改正労働基準法で改正された内容は、以下のようになります。(厚生労働省HP参照)

① 長時間労働の是正

② 年次有給休暇を10日以上付与している従業員の有給取得5日/年取得
義務化

③ 同一労働同一賃金

上記の法改正により、残業時間は労使が協議し、36協定届を労働基準監督を

提出することで、行うことができます。働き方改革がスタートするまでは、臨時

的な条件の場合、得に上限は設けられていませんでした。

ただし、働き方改革のスタートにより、臨時的な特別な事情があっても、時間

外労働の上限は年720時間、2か月~6か月の平均80時間以内、さらに月1

00時間までとなりました。

また、有給休暇も年間付与日が10日以上付与される社員については、パートでもアルバイトでも、有給休暇を1年間の間に5日間消化しなければならなくなりました。

③の同一労働同一賃金については、同じ企業で働く従業員の中で、正規雇用社員

と非正規雇用社員の待遇格差をなくそうというものです。同じ職務に従事して

いれば、職務内容や配置など、非正規雇用社員が不合理な扱いが無いようにしな

ければならなくなりました。

働き方改革がスタートし、一人当たりの労働時間に制限がかかること、出産や育

児、介護での離職は多く、労働力不足が叫ばれていました。

厚生労働省が発表している2019年4月の求人倍率は1.63倍となっており、新規の求人倍率に至っては、2.48倍となっており、労働力不足が懸念される数字と言えるでしょう。

1-3 HRテックが注目される理由

少子高齢化による労働力不足の解消のため、以前からある時短勤務に加え、働く場所を限定しない「テレワーク」など柔軟な働き方ができるような環境づくりがはじまりました。

働き方が柔軟になり、個人個人の状況に合わせ、働き方が多様性になることにより、育児中の方や高齢者、自身の病気などで働く時間や場所に制限のある方でも、在宅勤務など、効率的な働き方ができるようになってきました。

同時に管理する企業側は、個人の都合に合わせた勤務体制を整えなければならず、人事業務にかける負担は増加していったと言えるでしょう。

働き方が多様化したことと、労働力不足という理由から、人事労務管理にかける時間の低減および限りある人材の効率化が求められはじめました。

またせっかく採用した人材でも、企業との相性も大切です。人が持っている能力が企業にとって発揮できる場所でなければ、企業にとっても社員にとってもマイナスとなります。

HRテック技術を持ち入れば、IT技術を用いてデータ分析を行い、採用する段階から、入社後の適正判定や配置など、さまざま角度から解析を重ね、企業と人とのマッチングし、企業も社員もともに成長することができます。

上記の理由から、もともと主にベンチャー企業で採用されてきた、HRテックを使ったサービスがここ最近注目を集めるようになった理由です。

2、HRテックを取り入れるメリット

人事業務にテクノロジーを利用した技術のメリットは何といっても「効率化」とです。

各社でHRテックを用いたサービスを展開していますが、大まかにいいますと、下記のようなサービス内容が上げられます。

①求人広告から採用管理までの効率化

②社会保険関係事務処理の効率化

③勤怠管理や給与計算など効率化

④データ分析を利用した社員教育や配置の効率化

⑤勤怠管理や労務関係処理などの効率化

上記のサービスの中でも、1つのサービスに焦点をあてて特化した会社から、各機能を連動させて複数の業務に使用できるものなど、各社いろいろな形のサービスを展開しています。

それでは、ひとつひとつの効率化について、見ていきたいと思います。

2-1 求人広告から採用管理までの効率化

HRテックで、大きな進歩となったサービスが、今まで経験や面接官の感覚だけで行っていた採用業務をテクノロジーの技術を使い、求人広告の作成から採用管理までを一元化して行うサービスATS(採用管理システム)の出現です。

採用の準備は、求人広告を掲載することから始まります。パートやアルバイトであれば店舗に手書き求人広告を張り出すといった方法から、indeedなどの求人情報の検索エンジンやリクナビなどの求人情報ナビへ求人広告を掲載する方法があります。

新入社員やキャリア採用など、正社員での採用を考えるのであれば、学生や中途採用希望者へ就職説明会実施やお知らせ、面接、採用通知の発送と多くの作業があり、時間を割くことになります。求人広告を見た人から、連絡が入り、履歴書の確認や面接を行い採用者へ連絡すると言う流れになるでしょう。

HRテックサービスでは、こうした求人~採用作業の管理、求人のマッチングなどを自動的に行ってくれるATS(Applicant Tracking System)と言う技術があります。ATSは日本語では、採用管理システムといいます。

ATSの技術を利用すると、求人広告の作成、面接の評価を可視化、応募者情報の管理などを行うことができ、採用業務にかける人事担当者の負担軽減になります。

採用管理ツールとしては、いろいろな会社から出ていますが、代表的なものを3つお知らせいたします。

MOCHICA(LINEコミュニケーション機能対応の採用管理ツール)》

 ・LINEと連動して、説明会開催日や面接日のお知らせなどを求職者へ行う。

 ・選考データの共有化や管理などをおこなうことができる。

《TALENTIO(複数の採用プロセスを一元管理できる採用管理ツール)》

 ・複数の採用エージェントを一元管理、選考管理やトレンド分析などの

採用支援

リクオプ(アルバイト、パートに特化した採用管理ツール)》

 ・パートやアルバイトを多数抱える企業向けの採用管理ツール

 ・面接日管理や雇用契約書のペーパーレス化など、採用業務を効率化する

2-2 社会保険関係事務処理の効率化

従業員の採用後には、健康保険や厚生年金保険被保険者届の作成および雇用保険被保険者資格取得届など社会保険書類の作成が待っています。特に健康保険は病院に掛かるときの健康保険証の発行が関係していますから、遅滞なく届ける必要があります。

こうした健康保険証や厚生年金などの届け出は、正確さとスピードが求められます。人の流動が激しい職場では、書類の作成だけでも人事担当者の大きな負担となっていました。

また、入社時だけではなく、出産による扶養者の増加や就職等による扶養者の減少など、扶養者の変動の時も扶養者変更届の作成が必要になってきます。

そして社会保険関係の中で、もっとも大きな業務は算定基礎届でしょう。

算定基礎届とは、4月、5月、6月に支払われた賃金の平均値を記入し、社会保険事務所へ提出するものです。毎年6月に日本年金事務所から説明会や案内が届き、7月10日前後までに健康保険加入者や厚生年金加入者すべてを記入し、健康保険組合や日本年金事務所へ提出する必要があります。

算定基礎届で、決定した3か月の平均賃金を標準報酬月額表に当てはめて、健康保険料や厚生年金保険料を決定し、9月分給与天引き分より改定された保険料になるように変更します。

また、年の途中で昇級や減俸があり、大幅な給与の変動があった場合も、保険料の改定作業が必要となりますが、これを随時改定と言います。

意外に忘れやすいのが、算定基礎届の改定月に給与天引き保険料を改定することや、随時改定時に決定された保険料を改定された保険料で天引きすることです。

ところが、HRテックを用いたサービスの中には、社会保険料業務を簡素化してくれたり、自動的に行ってくれる機能があります。

HRテック技術を用いたサービスには次のようなツールがあります。

Smart HR(社会保険業務の自動化)》

 ・雇用契約や従業員情報をクラウド機能を使い管理を行う

・勤怠管理や年末調整や各種労務手続きも自動化で行う

人事労務freee(従業員情報を元に必要書類を自動的に作成)》

 ・オンライン上で従業員自身が入社手続きを行うことができて効率的。

 ・給与計算や労務管理の一元管理や

・社会保険関係や労働保険料など各種手続きの自動化

2-3 勤怠管理や給与計算など効率化

人事業務の中で、勤怠管理や給与計算は、定期的に行う必要がある業務です。

近年は、短時間勤務やフレックスタイム勤務、テレワークなど働き方も多様化してきています。

またパートやアルバイトなどの非正規雇用社員や派遣社員などでは、入退が激しく、給与締切日などは集計に追われる業務でしょう。

働き方が多様化したことは、さまざまな事情により働くことが難しかった方にとっては非常に喜ばしいことです。ただ、勤怠管理は複雑になっていきます、期待管理が複雑になれば、給与計算も複雑になり、人数が多い職場では人事担当者は、残業することが常態化していたことでしょう。

HRテックのサービスの中には、モバイル機能を使った出勤退勤管理やシフト管理をはじめ、年次有給休暇の作成も出来ます。

また、他社とクラウドサービス連携により給与計算や労務管理などにも活用でき、HR領域の発展につながっています。

給与計算や勤怠管理などに関しては、弥生給与や給与奉行などといったソフトも以前から販売されていましたが、近年ではHRテックを利用したサービスが充実してきています。

Akashi(多種類の出退勤確認方法、他社との連携による労務管理)》

 ・ICカードやパソコンによる打刻など、多彩な打刻方法

・36協定など法律関係の対応

・Smart HRなどとの連携も可能で、より勤怠管理が効率的になる。

2-4 データ分析を利用した人事考課や教育の効率化

HRテックサービスでも注目されているのが、IT技術を使ったデータ分析による人事評価です。

従来、人事評価と言いますと、上司の感覚による評価が多くみられ、パワハラなどの問題となってきました。

HRテックでは、IT技術を用い、あいまいだった評価を大量のデータを分析

することにより、公正で的確な判断ができるようになりました。

そのため、適材適所の人事配置、人事評価をすることができ、社員のモチベーションも上がり、ひいては会社全体の生産性も上がるという構図が見えてきます。

人事戦略を考える上で、HRテックを使うことは、企業にとっても社員にとっても効率的なサービスと言えるでしょう。

人事考課やマネジメントを効率的にするHRテックサービスには次のようなツールがあります。

Unipos(ユニポス)》

 ・社員同士がスマートフォンを使用し、日常的にお互いを評価し、少額の成果給を社員同士の評価で分け合うビアボーナス機能がある。

mitsucari(ミツカリ)適性検査》

 ・会社と応募者が適性検査を行い、双方にマッチする会社を紹介する。

 ・適性検査は10分程度でスマホやタブレットで行う事ができる。

3、日本以外でのHRテック市場状況について

 日本でもHRテック市場は2015年頃より、成長がみられるが、日本以外の国ではどうなのでしょうか。

2019年度におけるHR市場で規模の大きな国は、アメリカ、イギリス、インドなどでしょう。

アメリカは世界最大のHRテック市場の規模で、世界の市場規模の約6割を占めていると言われています。もともとHRテックはアメリカのシリコンバレーを中心に発展していったテクノロジーです。

今後世界各国で、HRテック市場はより活発になっていくでしょう。

4、まとめ

いかがでしたでしょうか。今回はなぜ今HRテックが注目されるのかということについて説明してまいりました。

少子高齢化や働き方の多様化により、限りある人材資源をより効率的に活用するためには、データ分析による人事攻略や教育などIT技術を用いることで、

企業や従業員にとってよい効果が得られることが分かりました。

クラウド技術の発達により、従業員情報管理や採用管理などが自動化され、

人事作業が短縮となり、より他の戦略へと労力を注げることになります。

世界規模でも大きな拡大を見せるHRテックは、労働力減少が懸念される日本でもますます活用されるでしょう。

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