HRテックの導入により、人事はどのような変化をするべきか?

「HRテック」を導入すべき、ということが言われ始めたのは2017年の初めことからでしょうか。話題にはなりますが、大手企業やベンチャー企業の一部がその導入に踏み切っただけで、日本の大部分を占める中小企業は、「HRテックの導入」には至っていません。どのように捉えたらいいのかわからない、というのが正直な印象なのかもしれません。そこで今回は、かつての人事の仕事を振り返り、これからの人事がどのような役割を企業で担うべきなのか、時代とともに移り変わる「人事」のをありかたを考え、HRテックの導入にどのような意味があるのかをわかりやすく解説していきたいと思います。

 

「製造王国」であった日本、かつての人事部の仕事とは?

産業別に就業者数の推移を見てみると、戦後の1950年代には日本の就業者の半分以上が「農業」「製造業」などに分類される産業に関わる仕事に就いていました。製造業では社員に個性は必要なく、同じクオリティのものを同じ量で、毎日つくることが仕事であり、人事が従業員に「量産型マネジメント」をすることで、安定した商品の供給を行い、利益を産み出しました。
その考え方の中には、人事が従業員に対して配置管理や、特別な社内教育などをする仕組みはありません。当時の企業の流れでは人材育成に積極的でなく、新技術の習得や設備投入に注力していたため、業務効率化などの問題は議題にもあがりませんでした。

また同時期に、労働者が安定して働けるために「年功序列制度」と「終身雇用制度」が生まれました。これら2つの制度は、労働者の権利として生まれた制度でしたが、人事としても人件費を一律に計算することができ、年度毎の予算の予測がしやすく、わかりやすいシステムでもありました。年齢によって段階的に給与を決定していけばいいので、個々の給与が昇給しても全体からすると一定の予算で計画することができたのです。

このように当時の人事は労務管理を行う部署でしかなく、人手を確保する一律採用を行い、労務管理をし、給与を支払う、ということが人事の仕事だったのです。

サービス業の拡大、人事部が担う役割の変化

現在の日本の産業で最も多いものは言うまでもなく「サービス業」です。サービス業は現在の7割以上を占める産業であり、農業や製造業に関わる労働者は大幅に減少しました。サービス業というものは1人1人の従業員が企業に提供する価値が大きく変わります。
プロ野球で例えるのであれば、剛速球を得意とする投手がいれば、速い球を投げることが苦手な投手もいます。両者ともに多くの勝ち星をあげられるように、緩急の投げ分けや変化球の教え込みが必要になります。もしかしたら、打者転向を考える必要があるのかもしれません。また、相性の良い捕手とのマッチングや単調管理などを行うマネジメントも必要になります。このように人事の役割は単純ではなく多岐に渡ります。

つまり、人事はかつて製造業で行っていた「人事一定管理」という主な役割が、サービス業においては「個人の能力を引き出すマネジメント」を行う役割に変わることになりました。ビジネスの世界でも、サービス業では個人で莫大な稼ぎ方ができる個性を持った人が現れるようになりました。つまり、人事の役割は時代とともに変化し企業において「どのような人材を採用すべきか」「どのように育成すべきか」「どのように付加価値を高められるのか」という「人事戦略」が必要になってきたのです。戦後の製造業は企業の中での1つの部署でしかなかったのですが、現在の人事は「経営者の右腕」としての役割を期待されているのです。サービス業においては人事戦略が極めて重要な要素であるからです。

HRテックの導入で変わる人事部

さて、日本の産業の主力が「製造業→サービス業」に移り変わるうえで、人事の果たすべき役割が「労務管理→人材マネジメント」になった経緯を見てきました。人事部も大きな岐路に立っているわけです。しかし残念ながら役割が変化したからといって企業が人事部を大幅に人員増員するというのは少しイメージできません。つまり、これからの人事は労務管理を「業務」として行いながら人材マネジメントを「仕事」として行うことが求められます。そのためには、業務効率を上げなければとても不可能です。それらを可能にするのが今回のテーマである「HRテックの導入」です。HRテックの導入により、人事は2つのものを手に入れることができます。それは「時間」と「データ」です。

人事の役割はより多角的なものになり、時間の確保が必要です。時間を確保するためにはルーチンワークをいかに効率化できるかということを考えなければなりません。「データドブリン」という言葉は聞いたことがあるでしょうか。簡単にいえばデータを収集し、分析を行い戦略に役立てることです。HRテックの導入を行うことで膨大な時間がかかるデータ収集などを効率的に行うことが可能になります。つまりこれからの人事はHRテックを最大限に活用してルーチンワークを自動的に行う仕組みをつくり、空いた時間で人事に関してのデータ解析を行い、的確な人事戦略を行うことが求められてきます。

HRテックの導入、最大の障壁は何か

今後、人事が果たす役割とHRテックの導入する必要性は理解できましたが、現段階でHRテックを導入しようとする動きはそこまで活性化していないように感じます。それは4つの理由が考えられます。

<HRテックの導入が進まない理由>

  • HRテックの導入したことで得られる効果が現状ではわかりにくい
  • 人事の仕事に追われ、HRテックの導入するマンパワーがない
  • 現在の人事に満足してしまっている
  • HRテック導入に反対する勢力の存在

それぞれ、解説していきます。

<HRテックを導入することでの効果がわかりにくい>

HRテックの導入費用は、実はそれほど高額なものではありません。サービス内容としては、人材採用のシステムや、eラーニングツール、勤怠管理システム、社内SNSなど様々なものがあり、導入することで社内の事務業務を軽減する、コミュニケーションを円滑にするなどの効果が期待できます。価格の設定は非常に安価であり、どのサービスも中小企業でも導入できるような設定です。しかし「現実的にその効果が実感できない」「導入して、慣れるまでのメンテナンスが大変」などの理由から導入に踏み切れないというのが実情でしょう。また、数あるHRテックのツールのうち、「どのツールを採用すべきか」という決断がしにくいという側面もあるでしょう。しかし、実際に導入を行えばその効果はすぐに実感できるはずです。かつての米農家は手で田植えを行っていましたが、現在ではそのような人力で行っている農家はほとんど存在しません。HRテックのツールもそういったもので、導入することが常識になる時代はすぐに来ています。

<HRテックを導入するマンパワー不足>

人事管理の業務に追われ、新しい技術を採用するマンパワーが無い企業も多くあります。もちろん、HRテックそのものが人事管理の業務そのものを軽減できる技術なのですが、将来的な展望が見えていない人事であれば、導入に舵を切りにくいでしょう。「他社の成功事例を見てから判断」と考えている企業が大部分かもしれません。もちろん、一時的にはHRテックの導入にはマンパワーが必要になりますが、中長期的には企業に多くのメリットを提供するものです。

<現在の人事に満足してしまっている>

特に現在の人事に大きな問題がなく、忙しいことで人事の役割を果たしていると考えてしまっている企業も多いでしょう。これは客観的に考えると非常に問題です。こういった人事こそが「AIに取って代わられる」対象になってしまうでしょう。「労務で必要な書類はword、社員データと勤怠管理はexcel」というやり方でも仕事をすることができますが、それが果たして企業にとってベストなやり方でしょうか。人事が目を向けるべきなのはパソコンではなく、企業で働く人やこれからの人材などといった”人”です。時代に乗り遅れれば人材も離れてしまいます。危機感を持たなければなりません。

<HRテック導入に反対する勢力>

結局のところ、この部分がHRテックの導入に足かせとなっている企業がほとんどかもしれません。例えば2年後に定年を迎える人事部長はこのまま何もなく、穏やかに定年を迎えたいと思うでしょう。その気持ちは個人的に理解できるとしても、企業のあり方として同調することはできません。戦略人事を行うための下地としてはHRテックの導入が最適であり、多くの企業では通過点となることは目に見えていることです。将来の社員のためにもできる限り早めの導入を検討してはいかがでしょうか。

以上のように導入できない理由を考えていくと、導入するメリットは理解できても「手間がかかる」ので「後回し」ということになってしまっているようです。

HRテックの活用するステップを理解する

HRテックのサービスはどんどん導入しやすい状況になるでしょう。その理由はツールの低価格化が進むことがあげられます。誰でも簡単に使えるツールが現在、次々にリリースされています。安価で使いやすいサービスは導入のハードルを下げ、HRテックの普及に大きな影響を与えます。当然、使いやすいツール利便化が進めば他社でも「使ってみたい」企業は増えていきます。また、政府からの「働き方改革」の一環としてHRテックの導入のための補助金などを設置する動きもでてきています。これにより、主に中小企業での導入が加速化するでしょう。

HRテックの導入のためのステップとして、まずは1種の分野で導入するべきです。最初から膨大のデータを集め、分析・解析をするなどという大がかりのものではなく、現在困っている分野を解決するためのものの導入を検討すると現実的でしょう。導入しやすい分野は以下の通りです。

<HRテックを導入しやすい分野>

・人事労務管理ツール

・Webツール

・社員見える化ツール

それぞれについて簡単な説明をしたいと思います。

<人事労務管理ツール>

最もイメージしやすいものがこの人事労務管理ツールでしょう。クラウド人事労務ソフトを社内で導入することで、社会保険や労務保険などの手続きで必要な書類を簡単に作成することができるようになります。現在でも社会保険労務事務所に委託し、データをFAXなどでやり取りをしている企業も多いと思いますが、それもやがて過去の話になるでしょう。Web上で役所への申請を行うことも可能ですし、業務を簡易化してくれます。

<Webツール>

現在の企業は優秀な人材の採用に非常に苦労する時代です。人材が入社したいと思える企業ブランディング戦略のためにWebは重要な役割を果たします。採用のためのページを作成し、自社の働き方・働きがい・将来ビジョンなどを掲載しましょう。気軽に質問や問合せができるようなページですと、求職者との距離感を縮めることができます。様々な工夫を施していきましょう。

<社員見える化ツール>

現在の社員のタレントマネジメントのためのツールも非常に重要です。複雑なものでなく、簡単に社員の情報を集められるツールで十分です。目的は、社員データを収集して整理することです。それを社内で見ることができるように設定することです。得意分野などの情報が記載されていればプロジェクトを発動する際など、基盤データとなるでしょう。

「HRテックの導入」というと非常に大掛かりで、莫大な資本を投資しなければならないイメージに見えてしまうかもしれませんが、現実的にはツールを利用して、「情報を集める」「データを整理する」「社内で見ることができるようにする」という3つのステップを踏むということになります。まずは、1つの分野から始めてみてはいかがでしょうか。

今後、人事はどのような立場で仕事を行うべきか

HRテックの導入により、人事は本来の目的を果たす役割になるでしょう。つまり、労務業務を行うのではなく、「人材をいかに採用し、教育し、活用すべきか」という長期的な戦略を念頭に実践を行うことになります。かつて日本に工場を持っていた企業も、東南アジアなどに移転するようになりました。その影響は工場で働く人や家族だけでなく、その地域で下請けをする企業にも大きな影響があります。日本の主な産業はさらにサービス業に傾向していくでしょう。そういった企業を支える人事には、HRテックの導入が必須であり、より効率的な業務とより戦略的な仕事が求められているのです。人事は経営者に近い存在として、企業が成長するためのインフラになる必要があります。

まとめ

さて、今回は「HRテックの導入により、人事はどのような変化をするべきか?」と題して、HRテックの導入の意義と具体的な導入までの流れ、将来的な人事のあり方について述べてきましたがいかがだったでしょうか。最後にまとめてみたいと思います。

・製造業が盛んであった日本での人事の役割は「労務管理」であった

・サービス業が主力産業として発展した現在の日本では戦略人事としての役割が必要とされている

・労務管理と戦略人事を同時に行う必要がある

・労務管理を効率よく行うためにHRテックの導入が必要

・戦略人事をデータにより分析的に行うためにHRテックの導入が必要

・HRテックの導入の優先順位をあげるべき

・全てをHRテックにより変化させるのでなく、部分的に導入していくべき

・「人事労務管理ツール」「Webツール」「社員見える化ツール」などは導入しやすい分野である

・今後、HRテックを導入しない人事はAIに「取って代わられるものになる」

・人事は経営者の右腕になるべき存在である

日本の産業はこの70年間で大きく変化しましたが、驚くことに人事はその役割の変化を遂げられていません。今こそ戦略人事への舵を切るべきではないでしょうか。

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